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1 石田燈
5年前。初めて見た女神川学園高校日輪祭。文化祭のクライマックス。部活対抗戦最終種目。優勝戦。
その歓声の中心に燈の憧れる人がいた。
鏑木一青。
その人は表彰台の一番高いところにいた。
埃と、汗と、焦げ跡と。とにかくいろいろなもので汚れていたけれど、一番輝いていた。仲間たちに囲まれて笑う姿は、誰よりも尊敬していると思っていた祖父よりもカッコよかった。
胸が高鳴って、手は震えていた。
初恋だったと、自覚している。
「一兄すげえ」
思わず声が漏れた。
年上の幼馴染は誰よりも輝いて見えて、自分もこうなりたいという強い思いが心の中に生まれた。
「決めた!」
だから、燈はぐ。と、手を握り締めて言ったのだ。隣にいる年下の幼馴染に向かって。
「俺、高校生になったら、女神川学園の電算部に入部する」
今思えばヒヨコのような子供っぽい拙い宣言だ。けれど、そのころの燈にとっては真剣で真摯な決意だった。
「俺、一兄みたいになる!」
鼻息も荒くそういうと、怜悧でシャープで知的な兄とは少し趣の違う、おっとりとして温和な年下の幼馴染は、ぱちくり。と、その大きな赤い目を瞬かせた。
「あーちゃん。兄ちゃんみたいになりたいの?」
もちろん、紅二だってさっきまで『すげえ。兄ちゃんかっこいい!』と、手に汗握って応援していたのだが、イマイチ、ぴんときていないようだ。
「なる! そんで、スレイヤーになって一兄と一緒に働く!」
燈の返事にまた、紅二はその目を瞬かせる。何を考えているのか、よくわからない。何も考えていないのかもしれない。反応が少し鈍くて心配になる。才能はあるはずなのだが、こんなことで、スレイヤーになれるのだろうか。
「……じゃ、俺も」
にぱ。と、紅二は笑顔を見せた。前歯がない。かなり遅めだけれど、生え変わりの時期らしい。緊張感のない笑顔に燈はため息をついた。
「お前……そんなんでやってけんの? 電算部。すごく厳しいって、一兄言ってたぞ?」
そんな燈の心配をよそに、紅二はにこにこ。と、笑っている。
「だいじょうぶ! あーちゃんいるなら、俺も入る! そんで、あーちゃんといっしょにあそこに行く」
そう言って、紅二は兄のいる場所を指差した。その二人の姿を見つけたのか、表彰台の上にいる一青が笑顔で手を振ってくれた。全然似ていないと思うことが多いけれど、そんな笑顔は紅二によく似ている。
「……じゃ、約束な?」
一青に手を振り返してから、燈は紅二を振り返っていった。それから、小指を立てる。
「ゆびきり」
ゆびきりげんまん。うそついたらはりせんぼんのます。
歓声の中。二人は約束を交わしたのだった。
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