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「いい……とは?」
はじめまして。のあと、一言も発していなかった雷が久々に口を開いた。
「や。いろいろ……あったから。さ」
かつて、電算部は部員数十人を抱える強豪だった。それが、現在部としての存続の危機であるのにはもちろん、わけがある。そして、その『わけ』については、少し調べれば誰でもが知ることができた。
「鼎」
不用意な発言を咎めるように宙が言う。そのことについて、特に口止めされているわけではないけれど、不用意に誰にでも話していい話でないことくらいは2年生の全員が知っている。ただ、鼎が空気が読めずにそんなことを口にしたわけではないことは燈も分かっていた。単純に彼は新入生のことを心配しているのだ。
「もちろん。事件のことは知っています」
しかし、あっさりと雷が答えた。
名門の戦闘系文化部『電算部』が堕ちた理由。
それは、部活中、死者を出す事件が起きたことだった。しかも、部員同士の戦闘が原因の事故ではなく殺傷事件だ。
本来なら部が存続することなどありえないような不祥事ではあったが、部の体制そのものの問題でなかったこと、事件を起こした生徒が不起訴処分になったことで廃部を免れた。ただ、事件当時所属していた部員のうち3・4年生は全員退部。2年生で残ったのは小華と和彦だけだった。当時の1年生は当事者をほとんど知らないうえに、特戦の生徒はその辺の考え方が一般人とずれているせいなのか、15人中8人が残ったのだが、その後の小華のしごきに耐えられずに燈たち4人を残して辞めてしまった。
もちろん、部活停止で昨年度は全く活動できなかったのもよくなかった。電算室出入り禁止は半年以上に及んだのだ。ただ、残った部員たちは電算部の名前は使えなかったけれど、仮想空間での実習ではなく、実戦(という名のバイト)で経験を積んだ。おそらく過去のどの学年よりも実戦経験は豊富だった。
「大体の話は兄ちゃんに聞いてますよ。でもそれ。電算部には関係ないでしょ」
霖の方もあっさりと答える。
「ってか、逆境とか上等じゃねーっすか」
その上、そんなことを言ってにやり。と、笑った。
生意気な口をと怒る気はない。ただ、そんな風に言った部員の殆どが辞めていった。和彦の弟であれば現状は分かっているし、ここがどんな部活であるかはわかっているから期待はできるけれど、安心はできない。
「生意気で悪いな」
そんな燈の気持ちを察したのか、自分よりもずいぶん背の高い弟の頭をくしゃり。と撫でて、和彦が言う。それでも弟を見る目は優しさに満ちていて、兄弟の仲が良好なのだということは分かった。
「まあ、生意気な口なんて、すぐにきけなくなる。……なんていうのは、君たちの方がよくわかってるよな」
和彦の言葉に、苦笑して鼎が頷く。もちろん、和彦の言っている意味を一番に理解しているのは、現2年生だ。
昨日、部長は数合わせでも構わないというような言い方をしていたけれど、たとえ、人数がぎりぎりだったとしても、電算部の名を汚すような輩を小華が放っておくはずはない。電算部員を名乗るなら文化祭出場までに意地でもそれなりのレベルまで育てるだろう。
その過程がどんなものであるか、想像すると寒気がした。もちろん、現2年生の戦闘要員は全員経験済みだ。
「……でも。うちの両親もそんなに甘い方じゃなくてね」
含みを持たせた笑みを浮かべて、和彦が両手を広げる。その背後に同じ顔をした二人の弟たちがいる。口には出さないけれど、弟たちの実力は保証しているよ。と、表情が物語っていた。
和彦の両親はともにスレイヤーだ。和彦ともども、英才教育を受けてきたということなのだろう。
「とにかく。あと一人。いや。二人か。入ってくれれば、日輪祭の出場は可能だ……というか。あと、一人でいいのかな?」
燈たちの後ろにいる人物に視線を移して、和彦が問うた。
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