11 壁とスマートフォン

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「あ。雫先輩」  雫の言葉に眉を一瞬だけ寄せてから、茉優も笑顔になる。 「いたんですか。あんまり大きいから壁かと思ってました」  最初のうちは雫に対して敬意を示していた茉優だったけれど、このところ、雫に対しての対抗心を隠すことはしなくなった。宙や鼎に対しては礼節を忘れないのとは対照的だ。 「あー。うん。よく言われる」  雫は体格が良いことが多い女性スレイヤーにしてもかなり大きい身長180センチ。しかも、体術の成績は学年トップクラス。彼女に嫉妬する輩が彼女のことを『壁』と揶揄しているのは燈も知っているし、雫本人も知っている。けれど、雫はそういわれても別に気にしている様子はない。いつも、『壁かあ。その通りじゃん』と笑っていた。 「私も、小林ちゃんみたいに小っちゃくて平べったかったらせめて『スマホ』くらいには言ってもらえたかな」  にこにこ。と、いつもの笑顔で雫が宣った。手に持った自分のスマホと茉優を並べて見比べて、おお。と、わざとらしく驚いてから、そっくり。と、笑う。いや、目は笑っていない。 「は?」  茉優の笑顔が引きつる。  『壁』などと評されているが、雫のスタイルはほぼモデル並みだ。股下は95センチを超えているらしいし、バストはFカップ(本人申告)。こんな壁があったら映えスポット過ぎると思う。そんな雫に体格をあげつらわれて気分がいいわけはない。小柄でやせ型の茉優は可愛らしいと言えなくはないが、人の体格のことをとやかく言えるほどではないのだ。 「……ひどい」  自分の言っていたことは棚に上げて、茉優はぎゅ。と、燈の腕を抱きしめるように縋りついてきた。見上げる目が潤んでいる。 「燈先輩も……そんなふうに思ってるんですか?」  上目づかいで見上げてくる茉優。この手の話題に、男が口出しするのは完全にNGだと、燈だってわかっている。 「……飯食いに行ってくる」  だから、燈は何も答えず、茉優の腕から自分の腕を引き抜いた。正直な話、限界だった。この面倒くさい生き物から少し解放されたい。 「あ。燈先輩。私も一緒に……」 「午後は実習。監督官と飯食うから」  と、追いすがってくる茉優にそっけなく答えて、燈はひらり。と、手を振った。学校内で、しかも、昼休みなら、別に茉優と一緒にいてやらなければいけない理由なんてない。茉優が自分からふらふら。と、人目につかない場所に行きさえしなければ、人気のない場所などほとんどないのだ。 「でも。でも」  それでもしつこく追ってくる茉優を、教室を出たところで速度を上げて、まいた。きっと、戦闘系のスレイヤーでない茉優には燈が消えたように見えたことだろう。  教室を出たところできょろきょろ。と、燈を探す茉優を置き去りにして、燈は監督官との待ち合わせの場所へと向かったのだった。
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