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12 のろい
女神川学園高校25号棟の端にあるD-2号演習室に入ると、燈は大きくため息をついた。さっきから、何度もLINEの着信音がしている。相手は見なくても分かっているけれど、もし、電算部の部LINEだったら。と、思って、燈は画面を確認した。部LINEを無視すると小華の恐ろしい鉄拳制裁が待っているからだ。
けれど、メッセージの相手は案の定ほとんどが一人からだった。
『わたし、失礼なこと、言いました?』
『がっこうの中にいる? どこにいるんですか?』
『め。見てる。あの人だ』
『います。近くにあの人がいて。怖い』
『にげられないよ。捕まっちゃう』
『しんじてたのに。助けてくれないの? 燈先輩』
『たすけてくれるって言ったのに』
『がっこうやめなきゃいけなくなるよ? 先輩のせいだよ』
『えんしゅうしつ? えんしゅうしつにいる?』
そこまで一気に読んで、燈は画面をオフにした。メッセージは続いているし、見ている間にも増えている。教師に報告して事態を収拾するという最善策を取らなかった燈の自業自得とはいえ、鬱陶しい。さすがに、お人よしと自覚がある燈でも思ってしまっている。ただ、燈は初めから茉優に一切恋愛感情は持っていなかったし、ただの人助けだと思っていたのだ。
「……俺。バカなのかな」
手近な椅子に座って、机の上に上半身を投げ出して燈は吐き出すように言った。
どうしてこんなことになったのか。自分が悪いのだろうか。
別に聖人君子を気取るつもりはない。燈は自分のしたことが、助ける人のためなんて思わない。燈自身が誰かが何かに傷つくのを見るのが嫌なだけだ。本当にただのお節介なのだ。
だから、感謝される必要もないし、お節介だと罵られてもいい。
「自分のことしか考えないから、罰があたるのかな」
それでも、一方的で無遠慮な好意を寄せられるのが、ここまで嫌だと思うことも今までにはなかった。単純にここまで強引に情熱的に迫られるのは初めてだったこともあるけれど、ほかにも理由はある。燈自身に好きな人ができたからだ。否。好きな人がいるのだと自覚が芽生えたからだ。思い返せば、きっとずっとその人のことが好きだったと思う。けれど、それをしっかり自覚してから、こんな風に女性に付きまとわれるのは初めてだった。
燈にはその人以外の人から向けられる好意が疎ましく思える。淡い恋心を持たれるくらいならいい。けれど、誤解を受けるほどのアプローチを受けるのはごめんだ。
「もー。やだ」
学校ではなるべく子供っぽい言動は控えようと努めている。けれど、つい、甘えた声が出てしまった。
もう、はっきりと言ってしまいたい。守ってやるのは別に構わないけれど、付きまとわれるのはごめんだ。と。
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