12 のろい

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 飯を食ってくるなんて言ったけれど、食欲はなかった。  昼食を一緒にとろうと約束している燈の監督官は元は一青の監督官でDDと呼ばれている人物だ。スレイヤーとしては優秀だが、言動が軽薄で交友関係が派手なことでも有名で、燈の監督官にと担任に勧められた時には、祖父の弟子の若いスレイヤーに『燈ちゃんの貞操が危ない』止められた。が、一青のようになりたかった燈が反対を押し切って監督官に選んだのだ。  ただ授業が始まって人柄を知ると、DDは噂とは違って、軽薄なのは表面だけで、尊敬に値する人物だった。本人は全く人材育成には向いていないと言っているのだが、すでに何人ものスレイヤーを一人前に育てた優秀な指導官だ。  だから、授業以外でも時間があるときには昼食を一緒にとったりして、話を聞いてもらうことも多かった。もちろん、主にスレイヤーになるための自身の強化についての話なのだか。 「先生……早く来ないかな」  一青はDDのことを愛称で呼んでいた。燈も最初はDDと呼べと言われたのだが、DD自身のスレイヤーとしての力も、弟子だった一青の力も燈にとっては遠く及ばない高みに見えて、とても愛称でなんて呼べなかった。許してほしいと素直に訴える燈にDDは『かわい子ちゃんにそんな顔されたらダメとは言えないな』と、先生と呼ぶことを許してくれた。どこまでが、本気か分からないのだか、それ以来燈はDDを先生と呼んでいた。 「てか……これじゃ俺もあの子と変わんないじゃん」  燈は別に茉優が怖いわけじゃない。いや、怖いのかもしれないけれど、身を守る方法はわかっている。  ようは燈の気持ちの問題なのだ。  誰も彼も救いたいなんて子供みたいな我儘を言わなければ、問題は解決する。 「意地はっても仕方ないのかな」  そう呟くけれど、中々心は決めきれない。  それにも理由がある。  数年前のことだ。  燈は魔光持ちの変質者に襲われたことがある。幼い頃から祖父に鍛えられていい気になって、自分の力を過信していた燈は心配する一青や翡翠を無視して一人で行動して危険な目にあったことがあった。無事で済んだのは翡翠が身を挺して守ってくれたからだ。  目の前で傷つけられたのに、襲われたのは燈の自業自得なのに、翡翠はそれでも笑ってくれた。  その時のことが、忘れられない。  だから、多分危険なことまではしてこないだろうなんて、相手を侮ることはできないし、気に食わないことを言われたとしても放っておけない。  燈が襲われたあの事件で大した怪我ではなかったとはいえ、傷ついたのは翡翠だ。翡翠が大丈夫と言ってくれても、燈の心にも傷が残ったのは間違いない。  かといって、あんなひ弱な女の子がスレイヤーになりたいと思うからには、それなりの理由があったはずだ。茉優はスレイヤーを目指している理由については語りたがらない。だからといって、軽い理由だとは思わない。否、軽い理由ではないから語りたがらないかもしれない。  どちらにせよ、それを簡単に諦めろというのも嫌だ。  茉優の行動がエスカレートしてきたここ数日間。燈はそんなことばかり考えていた。
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