カエリミチ

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「だいじょうぶです、私にも聞こえます。解決のカギは【オカエリナサイ】という言葉でしょう」 「――っ!」  てっきり聞こえてないと思っていた。  占い師は軽く頷き、オレの肩越しの向こう側に視線を定める。 「【お帰りなさい】は、もともと帰ってきた人間が、知らないうちに連れてきた【家に入れてはいけない存在】を、本来の場所に(かえ)すための言霊(ことだま)――つまり呪文なのです」 「本来の場所?」 「はい。貴方(あなた)に向けられた言葉であるのなら、答えは貴方の中にあります」  アドバイスを期待していなかった分、提示された情報に頭が混乱した。  オレの混乱をよそに、占い師はカードをめくり水晶玉に手をかざす。  めくられたカードの一枚には、大きな鎌を持った死神のイラストがあって心臓に悪い。 「九時(ここのつどき)ではなく、9時(くじ)。これも因果(いんが)。バランスはどこかで取らなければいけない。解決を求めるなら執着を手放すこと」  占い師の言葉が、不思議な響きを(とも)って胸に迫ってくる。 「本来の自分が帰る場所に向かいなさい。ただし、貴方を惑わす声に従ったら、貴方は9回殺されて地獄に堕ちる。執着を手放さない限り、貴方に本当の安らぎは永遠に訪れない」  断言。  占い師がまっすぐな視線でオレを見るが、なんで占い師の瞳に?  絶句(ぜっく)するオレの目の前で空間が歪む。 『えぇ、奥さんは意識不明です。恐らく、お子さんがクッション代わりになってしまったのでしょう』  気まずそうに説明する医者。  寝たきりの妻。  赤ん坊の泣き声を、死んだ和生の泣き声と混同して精神科で暴れる自分。 【オカエリナサイ】  それは自分に向けた自分への無意識サインだった。  最初から存在するわけではなく、自分が作った影に自分で怯える、可哀そうな(おのれ)(ひた)れる幸せな悪夢(もうそう)。  けど、なにごとにも始まりと終わりがある。 「ただいま」  そう言って、マンションの扉を開けると、首を吊ったオレがいた。        
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