Rainy Blue

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 僕という男は、恋をすると三倍くらいの力が出る。  当時に至ってはそれが五倍さえあったかもしれない。  身も心も非常に軽くなる。  それで僕が取り組んだのは、彼女の気を引くために、あるいは見直させるために男らしくなることだった。  僕は実は中学生時は、パソコンを扱う文化部にいたのだが、それはひとえに運動が苦手だったからだった。  運動ができないというコンプレックスをはね返すことで、彼女にふさわしい男になろうとしたのである。  それで、まったく体力も気力もまともにないのに、果てしなく体力勝負であるサッカー部の門戸を叩いたのだった。  小四のときにクラブ活動で少しサッカーをやっていたという、それだけの縁で選んだスポーツだった。その当時も下手くそすぎて、嫌気さして朝練に行かなくなったのに我ながら安易だが、唯一の選択肢でもあった。  当然、初めから練習メニューに全然ついていけなかった。  あと運動部特有の上下関係も苦手で仕方なかった。  ド近眼で目が見えないハンデに加え、走れない、球も蹴れない、大きな声も出ないで、顧問や先輩らからは罵声が飛んだ。  足腰は常に故障気味だった。足の甲の疲労骨折で、インステップでボールが蹴られなくなっただけではなく、ランニングの一歩一歩にさえ痛みで神経が参りそうになったこともあった。  正月しか休みがなく、もともとがハードなスポーツのせいか、同学年のメンバーは一年生の四月入部当初は16人いたけど、三年のインターハイ引退のころには僕を含め6人にまで減っていた。  それを思うと僕もかなり無茶をしたものである。
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