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 しかめ面をした男は白髪交じりで、汚れた作務衣(さむえ)を着ていた。さほど背が高くはないが、子どもを捕まえるだけの腕力はあった。 「逃げんな、なにしに来た」  腹の底から響く男の声は一本調子で、怒っているようには聞こえない。はなせ、やめろ、と友達が悲愴な声を上げ、自分の腕を男の手から引き抜こうとして暴れている。  男は友達をつかんだまま、左手に持っていたものを祠に向かって投げた。赤い滴を飛び散らし、濡れた雑巾が地面に落ちたような音がした。  なにを投げたのか確認したかったが、振り向いたらよくないことが起こりそうな気がして動けなかった。 「すみません、勝手に入ってしまって……ボールがここらに入っちゃったんで、探してたんです」  しどろもどろに答えると、初老の男は「ボールぅ?」と拍子抜けした声を発した。  ああ、と合点がいったようにうなずく。 「そんなら、さっき表に放り出したぞ」  え、と腕をつかまれたままの友達と目が合い、男へと視線を向ける。 「はよ、出てけ」  そう言って、男は友達の腕を放した。  ふいに恐怖が軽くなった。男の気が変わる前に立ち去りたかった。
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