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 十数年経ってから、屋敷のなかで家主が孤独死していたのが発見された。死亡時期が寒い冬の時期だったせいか、放置された死体は腐敗せずに干からびて、発見されたときには真っ黒にミイラ化していたらしい。  忘れられない記憶だったのに、すっぽりと記憶から抜け落ちてしまっていた。まるで丸ごと奪われたかのようだった。  あれからもう四半世紀近くが経ち、二度と同じことは起こらないと信じ切っていた。  それなのに。  口のなかにあの時の飴玉の甘さが甦ってから、あのときのことを鮮明に思い出すようになった。黒い祠の光景が脳裏に焼きつき、ひとときも気が休まらない。  家の正面に、祠のあった場所がある。窓の外を見れば、嫌でも目に入る。  かつて祠のあった場所が、気になってしかたなかった。  窓の外を覗く。アパートの敷地の片隅に、ぼんやりと老人の姿が浮かび上がる。  どうしても目が向いてしまう。こちらに手を振るのが見えるからだ。
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