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 最初は魂抜きの儀式が終わったから、成仏できるのを喜んで、手を振っているのだと考えた。  だが、その姿は数日経っても一向に消えてくれない。  それどころか、だんだんと姿がはっきりしてくるように思えた。  周辺で異変を聞くようになった。近所の住人が、忽然と消えてしまった。一家族だけでなく、何人もの男女がいなくなった。  そのなかには、昔からの知り合いもいた。彼らは同じ小学校の生徒だった。  あの老人から飴をもらった子どもは、他にもいたかもしれない。あの敷地に忍び込んだ子どもたちは、きっと自分たちだけではなかったはずだ。  自宅にいると、カーテンを引いていても窓の外を確認せずにいられない。  老人は手を振っている。(いか)めしい顔つきが、ひどく歪んで口角が裂けたかのように笑いかける。  老人が立つ地面からは、いくつもの黒い枯れ枝のようなものが生え、ゆらゆらとうごめく。黒い枝は、どれも先端が五本に別れている。
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