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第6話その後
母に結婚を先越された。
喜んでいいのか悲しんでいいのか分からないが、花嫁衣裳の母は綺麗だったので喜ぶべきだろう。
「結婚おめでとう」
徹夜のうえに二日酔い。
頭を抑えながらギルドに行くと、ハンスが祝いの言葉をくれた。
「ありがとう」
「大丈夫か?」
「二日酔いで頭が痛い」
「そうか……」
「ああ……」
「依頼が来ている」
「どんな?」
「元勇者の国の件だ」
「亡国から依頼?幽霊?」
「茶化すな。依頼はこの国からだ。もちろん断ってくれても構わない」
「なら断ってくれ」
「内容は聞かないのか?」
「大体想像がつく」
「そうか……」
ハンスは依頼書を机の引き出しに仕舞った。
この男の癖だ。
内容をじっくり見て検討する。
依頼する人間は必ずしも良い人とは限らない。
揚げ足取ってくる連中も多い。ハンスはギルドマスターに就任した時にそのことを痛感したという。
「便利屋にはしない」とギルマス就任の挨拶で公言していたと伝え聞く。
「グレイ、俺になにか言うことは無いか」
「……いや、なにも?」
「そうか、ならいい」
ハンスは勘が良い。
あの国が滅んだ理由を薄々感づいているはずだ。
俺がなにかしたと思っている。
残念ながら、俺はなにもしていない。
違反行為はなに一つしていない。
それはハンスも分かっているはずだ。
だってそうだろ?
魔獣はこの数年で恐ろしく賢くなった。
人の言葉を理解している。
だから俺の独り言を聞いて勝手に勇者の国を襲ったのだって仕方のないことだ。
俺だって別に襲ってこない魔獣を惨たらしく殺す趣味はない。
会話が成り立つ魔獣なら一応話し合いをする。当然だろ。俺達は『人間』だ。獣じゃない。話し合って決裂すれば皆殺しにするが、妥協できるのなら殺さない。それが俺のやり方だ。魔獣は番犬代わりになる。
昔、母さんたちに内緒で隠れて飼っていたことがある。
結局、母さんにはバレたけど。
その時言われたことは、「人は魔獣を恐れるわ。この子をこれからも飼い続けるなら番犬にしないと」だった。
今思うと、豪胆な母だ。
普通の親なら悲鳴を上げてるだろう。
ただ、魔獣は母さんにすぐに懐いていた。
「動物に好かれる質だから」と言っていたが、もしかすると魔獣に好かれる質だったのかもしれない。
その魔獣は今も母を守っている。
姿は魔獣とかけ離れているせいか大型犬だと周りが勝手に勘違いしてくれる。俺も母さんも訂正しない。
だってそうだろ?
その子のお陰で花街に変な輩がいなくなったんだ。
治安維持を一匹でしている。賢い子だ。
エサ代もかからないうえに、貢献もしている。そこらの人間よりも忠誠心が高い。
どっかの亡国の連中に見習わせたいくらいだ。
その後、元勇者の国は魔獣の生息地帯になった。
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