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「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
変わらない朝に、変わらない挨拶を贈る。
「ただいま」
「おかえり」
変わらない夜に、変わらない挨拶を贈る。
「………」
喧嘩した日は、何も言わないこともあった。
「……ただいま」
「……おかえり」
変わらない夜に、気まずそうに挨拶を贈る。
2人で不機嫌そうな顔を見合わせて、それから苦笑いしてごめんねと伝えあった。
「行ってきます。今日は、早く帰るから」
「行ってらっしゃい。無理しないでね」
変わらない朝に、少しだけ言葉を添えて挨拶を贈る。
「ただいま。――誕生日、おめでとう」
「おかえり! ありがとう、凄く嬉しい」
変わらない夜に、喜びを添えて挨拶を贈る。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
いつも通りの、変わらない挨拶を贈る。
「…………」
真っ暗な部屋に、1人きり。
変わらず朝は来るのに。
変わらず夜は来るのに。
あの人の変わらない「ただいま」だけが、還らない。
何十回、何百回と繰り返したやりとりだった。
変わらないものだった。
変わらないと、信じていた。
「……おかえりって、言わせてよ」
あなたの「ただいま」が、こんなにも恋しい。
世界は不幸で溢れているのに、あなたの「ただいま」が不変だと、どうして信じていたんだろう?
何十回、何百回と繰り返したやりとりだった。
あと何千回、何万回だって、あなたと贈り合いたかった。
変わらない夜に、あなただけがいない。
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