序章

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序章

「いただきまーす」 「はぁい、どうぞ」 朝からニコニコとお箸を持った7歳の娘、千愛(ちえ)と、その隣に座る夫、宗人(むねひと)の前に麦茶を置いてから、私、秋山風子も手を合わせた。 「いただきます」 「どーぞ。ママの玉子焼き、好き、美味しい」 「ありがと、千愛。もう一切れ、ママのも食べる?」 「うーん…半分ちょうだいっ!」 少し伸びた前髪をお気に入りのピンでとめた千愛のお皿に、お箸で半分に切った玉子焼きを乗せると、千愛はすぐにパクリと美味しそうに食べた。 「朝からたくさん食べてえらいな、千愛」 ウンウンと頷きながら言う夫は、右手にお箸を持ったまま左手はお茶碗から汁椀に持ち替えた。 「今日はパパの好きなお味噌汁よ」 「千愛も好きだよな。キャベツたっぷりの味噌汁」 「…………」 私は千愛が小学校に入学してからずっと、千愛の学校給食に合わせた朝食をつくる。 パン給食の水曜の朝はご飯、水曜以外は米飯給食だからパンの朝食を準備する。 それは、千愛のことを大事に大事に…何よりも大事にする夫が私に課したこと。 決して間違ったことではないし、素直に応じられたことだけど、当たり前のように食べるだけでなく、向かいに座る私の言葉まで隣の千愛に返す夫へ、朝からもやっとする…はぁ……こんなのは日常的で気にしていられない。
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