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見ちゃいけないモノ
何にでも、見ちゃいけないものってあるよね。
例えば化粧してる最中の女の子。
アイメイクしてる時とか、めっちゃ鼻の下伸びるじゃん。
カワイイは作れるけど、作ってる途中は全然カワイくない。
鏡の中をチェックして、わたしは気合を入れた。
「おーし、おしおし! メイク完了。まつ毛もおめめもパッチリだ!!」
前髪を留めてるクリップを外せば、染めて間もない金髪がおりてくる。
下の階からお母さんの呼び声が聞こえた。
「シロちゃん、朝ごはんだって」
わたしが誰もいない部屋の中で呼び掛けると、足元の影がざわっと揺れる。
そして影の中から一匹の白い犬が飛び出した。
狼みたいなそれは、ブルブルっと体を震わせてから、人間の言葉で喋る。
『全く、アンタはいつまで顔こねくり回してんのヨ? 鼻の下こーんなに伸ばして、いくら塗ったくったってアタシの美貌には敵わないわヨ』
「いや、オネエの犬神にそんなこと言われても」
ご冗談を、くらいの扱いで笑うとシロちゃんは背中の毛を立てて怒鳴った。
『キーッ! アタシは正真正銘のメスなのヨ!!』
「はいはい、超美女の犬神ね。朝ごはん、カリカリだけ? 缶詰混ぜる?」
めっちゃ不満そうな顔でこっちを見てるけど、ごはんの誘惑に負けたらしい。
わたしの後について来た。
『今日はカリカリがいいわ、かつお味のヤツ。それから何度も言ってるケド、アタシの名前は白露ヨ! シロちゃんなんて、犬みたいに呼ばないデ』
ふんと鼻を鳴らしながらもしっぽはフリフリ、カリカリのドッグフードがお皿に出てくるのを待ってるのを見ると、どうしても犬にしか見えない。
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