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「本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。これよりデスゲームを始めます!」
廃墟と化した病院に響き渡る不気味な声。突如始まったデスゲームに誰もが混乱している。無理もない。目覚めたら、自分を含めた大勢の人間がこんな廃病院に集められて殺し合いをさせられるのだから。
それからゲームは粛々と行われて、耳を塞ぎたくなるような断末魔と共に幕を閉じた。
「ふぅ、やっと終わりましたね、先輩!」
部下の橘愛佳が場違いに明るい声で俺に話しかけてくる。
「バカ、気を緩めるな。まだVIPの前だろうが」
俺は小声で窘めると、この煌びやかな会場を見回す。先ほどのゲームをモニター越しに観戦していたVIP達は興奮冷めやらぬ様子で会場を出ていく。そして、我々デスゲーム運営会社にとってVIPは大切なお客様であり、ゲームの参加者は競馬で言うところの馬と一緒だ。どの馬が勝つのかをVIPが予想して賭けている。
そもそもデスゲームなんて創作だけの話だ。そんな風に思っていたこともあったが、こういう金持ちの娯楽は昔からあったらしい。初めて聞いた時は驚いたが、こんなイカれた興行に有り難がって大金を落としてくれるのだからVIPさまさまだ。
「せんぱ〜い、さっきはごめんちゃい」
誰もいなくなった会場で橘はわざとらしく瞳を潤ませている。相変わらず小悪魔のような可愛らしい顔立ちをしていて、普通の男なら簡単に許してしまうだろうが俺は騙されない。橘がこの会社に入社して早三ヶ月、既に強力な免疫ができてしまっている俺は誠意のない謝罪を聞き流しながらスタスタと歩き出していた。
「本当に悪いと思ってんならとっとと会社に戻るぞ。今日のゲームを報告書にまとめなければならん。今日は残業だな」
「えー! もう私くたくたです。これ以上は本当に死んじゃいますよ〜」
「はは、デスゲーム会社で死ぬとは笑えない冗談だ」
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