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第1話
ことの始まりは一昨日の深夜…
「よしっ…終了」
繁華の外れにある割烹居酒屋の裏口からゴミを運び出してゴミ箱に入れると、今日もバイトは終了だ。
「奥田?」
はっ?ヤバい…ヤバい…人違いデス…
私は男の声に振り向きもせずに、裏口のドアノブを引っ張った…はずだったのに…私の手はスラリと長い指が5本ついた手にガシッと押さえられた。
「奥田茉里。こんなところで何してる?」
「…………」
「こんなところで、こんな時間に何してる?」
「…………」
ヤバいどころではない。これは退学間違いない…ツンだ…私。
「こんなところで、こんな時間に、そんな格好で何してる?」
口を開くたびに質問を増やす男の声を、私はよく知っている。
「…すみません…ごめんなさい…灰原先生…」
「ドアに謝っているのか?」
んなわけナイでしょ。
「質問にひとつも答えないのか?2年2組、奥田茉里」
「っ…ちかっ…」
「個人情報に配慮しているだけだが?」
私の手を押さえたまま、私を後ろから抱きしめるかのような距離へ近づき、耳元で話す灰原先生は2年2組の副担で世界史教師27歳だ。
「送る」
有無を言わせぬ音色で私の鼓膜を揺らした先生は
「ここで待ってる。逃げんなよ」
さらに低く言葉を吐いた。そして…
40分後…私と先生は、先生の1LDKのマンションの部屋でローテーブルを挟んで向かい合っていた。先生が二人掛けカウチソファーにドーンと座り、私はラグの上からつま先をはみ出しつつ正座する光景は、典型的な説教シーンの絵面じゃないか…そりゃ、校則に反してアルバイトしていたのだから文句は言えないけど…
「ぁ…の…灰原先生…」
私が先に口を開いたことが気に入らないのか、先生は眉をひそめて私を睨んだ。
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