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1 ラブホにて
*性的表現あり、苦手な方はご遠慮ください
「2時過ぎたか……ヤバいな、かなり遅刻だ」
電車を降り、腕時計をみて思わずつぶやいた。
匿名登録OKのバーチャルハッテン場『ORERA』で知り合った、顔も知らない声も聞いたことがない彼。会うのは今日が初めてだが、こんなに待たされたら怒って帰っちゃっても仕方がないな。
急ぎ足で改札に向かいながら、期待を込めて構内を見回した。目的地に向かう人の流れの向こう、券売機の横に……いた。きっと彼だ。
白いTシャツに黒いスキニーパンツ。流行りのスニーカーから判断するとかなり若い。
背は平均より高めで髪は短く、細身ながらもガッチリした肩幅や引き締まった長い足から、スポーツをしていることが伺えた。
ジャケットを腕にかけ、右手でスマホを操作している。耳にコードレスイヤホンが見えるのは、音楽を聴いているのか。サマになっててカッコいいなぁ、おい。
改札口を抜けて彼に近づく。
顔をあげた彼と目があった。
少し釣り上がった目尻と意志の強そうな太めの眉。彼とは反対に、目尻が下がり童顔だと評される自分の顔を思い浮かべた。
大人びた印象の彼は確か大学生だったはずだが、28才の俺と並んでも同級生に見えるんだろうなあと心の中で苦笑いした。
彼は俺を見て、安心したように僅かに目を細めた。イヤホンを外してポケットに入れ、軽く頭を下げてこちらに一歩踏み出した。
俺から声をかけた。
「遅くなって申し訳ない」
「いえ……」
「ショウくん? ナルです、はじめまして」
「はじめまして……」
「行こうか」
俺は促すように体の向きを変え、二人で肩を並べてゆっくりと駅を後にした。
壁一面に蔦が覆い、派手な看板も料金案内の表示もない、周囲に溶け込んで目立たない路地裏の古びた外観のラブホテル。パネルではなくフロントがいて、ビジネスホテルとして利用する客もいるため昼間に男二人が出入りしていても不自然ではない。
室内は比較的新しく、ラブホとは思えない大きな窓から差し込む日差しが室内を明るく照らしている。
彼はぐるりと部屋を見回した後、椅子の背もたれにジャケットをバサリとかけた。
俺もネクタイを緩めて彼に向き合った。
「緊張してる?」
「はい」
「大学生だっけ?」
「――はい」
嘘だ、おそらく高校生だな。ま、匿名OKなら正直に書くわけないか。
「若く見えるね。確認だけどさ。ショウくんが上、でいいんだっけ?」
彼は小さく頷いた。
「了解。先にシャワー浴びておいで」
彼はゆっくりバスルームのドアを開けた。少しするとシャワーの音が聞こえてきた。
俺はスーツとワイシャツをハンガーに吊るし、ネクタイとともにクローゼットにしまった。
カーテンを閉めて日差しを遮り、ベッドに寝転んだ。
彼は事前に童貞だと申告してきたので、若いだろうと予想していたけれど……年齢には触れないことにする。
セックスに興味があるのに、同性相手がいいなんて周囲に打ち明けることもできず……で、ここにたどり着いたってところか。初めてが俺でいいのか疑問だけど。せっかくだ、たくさん気持ちよくしてやろう。
今日はボランティアだ。俺が? はは、何だか楽しくなってきた。彼にあれこれ期待できないし、自分のためにもしっかり準備しなければ。
タチネコどちらでも。そうプロフィールに書いているが、実は受け入れるのは数年ぶりなのだ。
水音が止まり、しばらくすると彼はTシャツとボクサーパンツで出てきた。腰タオルじゃないところが初々しい。
「じゃ、俺も汗流してくるからゆっくりしてて。冷蔵庫のなか、どれ飲んでもいいから」
彼は無言で頷いた。
無口なのはもとからか、それとも緊張ゆえか。
「若いな、羨ましい」
予想したとおり、シャツの下から出て来たのは鍛えられた引き締まった若い身体だった。張りのある肌と硬くキレイに割れた腹筋に触れて、思わずため息が出た。
すっかり臨戦対策となった彼の股間に顔を近づける。それは予想より大きく、腹の奥が期待でギュッと疼いた。
先端からぷくりと溢れたしずくを舐めとり、右手で根元を支えて裏筋をゆっくり舐め上げる。チラッと見上げると、彼は眉を寄せ口を引き結び初めての快感に堪えている。
ギリギリだな。そりゃそうだよなー初めてだもんなー。いじめてるみたいだなー俺。ふふ、楽しーなー。
割れ目を舌でぐりぐり刺激し、パクリと頭から大きく咥え喉奥深くに迎え入れる。
すぼめた唇で何度か強めに吸い上げると「う、もう、ダメです……」と彼が息をつめた。腹にグッと力が入り、同時に勢いよくそれは放たれた。青臭いものが口の中に広がる。
「す、すみません」
困った顔がなんとも可愛いな。飲んじゃうと泣いたりして。見てみたいけど、ちょっと可哀想か。
それを掌に出してティッシュで拭っていると、彼は急いで冷蔵庫からペットボトルを取り出して、汚れを落とせと差し出してきた。
水を含み口の中を洗うように飲み干す。
――こんな風に気遣ってもらうのは久しぶりだっけ。嬉しいもんだな。イマラ強要する奴も珍しくないのにな。
興奮の表れか。若い彼の雄は全く萎えておらず、手で支えずとも天に向かって立ち上がり、まだまだ行けると主張している。
「ふ、それ。まだまだ元気だな……すぐ入れたい、よな?」
彼はこくりと頷いた。
ビクビクと震える起立にゴムをつけ、肩を押してベッドに押し倒した。上に跨り後孔に迎え入れ、ゆっくりゆっくりと体を沈めてゆく。
「う、お前、おおきい……な」
彼は、己が飲み込まれてゆく様子を食い入るように見つめている。その視線に煽られ、俺の体はどんどん熱くなる。
一番良いところに当たるよう体を倒した。抜き差ししながら堪能していると、突然体を起こした彼に腰をつかまれ、下から強く突き上げられた。
「っく、ああ……、」
乳首を舐られ強く吸われ、同時に体の奥の奥、一番深いところを何度も穿たれた。埋め込まれた欲棒がぶるりと震えて……両腕ごと強く抱きしめられた。
彼は2回出したにもかかわらずまだ萎えない。
「お前やっぱ若いなあ、もっとやりたいよな。ゴム替えてやるから今度は好きにヤッてみるか」
俺はベッドに横になり、下から彼を見上げた。
彼の視線がふと横にずれて、俺の左腕をジッと見た。
「腕……赤い?」
「あー。少し前に、お湯かぶっちゃってさ。軽い火傷、みたいな?」
「……痛い、ですか?」
「もう痛くない。大丈夫だ、気にすんな」
心配顔が近づいて、唇に優しくキスをされた。他人に心配される心地よさと胸に広がるフワフワ感が甘くてくすぐったい。
「ほら、早くこいよ」
照れを隠し、張り詰めた雄茎を膝でグリグリと押して挑発し足を大きく開いて彼を誘う。
彼はぐぅっと、喉の奥から低いうめき声を発した。目の奥が獲物を狙うような鋭いものに変化した。早く食ってくれと、期待で背筋がゾワゾワした。
亀頭がするりと入ってきたと思ったら、ガツンと根元まで一気に突き入れてきた。
「お、お前……ちょ。優しくしてくれよ〜?」
「……すみません」
「いやいや、いいんだ。好きに動けよ」
俺の膝を抱え直し、何度か腸壁をゆっくり擦り上げた後は力に任せた勢いだけの抽送を繰り返す。肌がぶつかるパンパンという音と、ぶつけてくる若い刺激に自ら翻弄されにゆく。
無口で無表情の彼の額にうっすら汗が浮かんでいる。はあはあと息が少し荒くなった。目を閉じ眉を寄せた。そろそろイクのか。
俺もタイミングを合わせながら己のペニスを扱いて解放した。
「どうして俺を選んだんだ?」
ワイシャツのボタンを留めながら聞いてみた。
「ハートのアイコン」
そう言って俺の脇腹を指差した。
そこにはハート型のアザがある。俺はそれをアプリのアイコンにしている。
「面白いと思った?」
彼は無言で頷いた。
「ふーん。お前ホント無口だね。気が向いたらまた連絡して」
彼は、やっぱり無言で頷いた。
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