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恋愛ゲームの世界
「かわいいいいいいいい」
私は思わずつぶやいていた。
奥に見える渡り廊下、そこで上を見上げ、下を向き、小さく息をついている。
金髪のさらさらとした髪が頭を動かすたびに揺れる。長いまつ毛と綺麗なブルーの瞳が遠くからでもわかる。息をついた唇は薄いピンク、まるで桜の花びらのようだ。
胸元のリボンが同じように揺れる。学園の制服姿も乙女らしさ増し増しでたまんない。
思わずこっちもほううっとため息が出た。
「アレク……」
「アレクシナ様」
「え?! はい?」
アレクシナと呼ばれた私、振り返ると、貴族令嬢が数人、私と渡り廊下を交互に見ていた。
「カレン様がまた男の方に?」
ねえ、と視線を絡ませるように合わせる令嬢たち。
そういうの、漫画に出てくる近所のおばさんたちみたいですよ、と言いたくなるが、こればっかりは仕方ないわよねえ。ヒロインとはそういうものなのよ。本人に自覚はなくとも、周りが放っておかないオーラがあるものなんだから。
「そんなふうに言うものではありませんよ」
ついそう返事をすると、ご令嬢たちは目を丸くしてからきゅっと細める。
「さすが、アレクシナ様ですわ」
「本当に貴族令嬢の鏡ですわね」
妙な感心されちゃうけど。
ヒロインはヒロインなんだから。あんなにかわいくて綺麗で、そりゃモテるって。
ああ、どうせ転生するなら何でヒロインに転生しなかったんだろう。
何でライバルの令嬢に転生しちゃったんだろう。
この世界は私がドハマりしている恋愛ゲーム「プリンセスダイアリー」
現世での私は車の運転をしていた、そこまでは覚えてる。交通事故にあい、気付けばこの世界にいた。
豪奢なお屋敷に住む令嬢、これはまさかの転生!? まさかのヒロイン? と鏡を見た私は、真っ黒な濡れたような髪に夜の海のような瞳、長いまつ毛に整ったスタイル。まあね、きれいなのよ、これが。絶世の美女って言われてもいいかなあ、なんて思えるぐらいの美人なんだけど。いかんせん、冷たそうなのよね。
それもそのはずで、私はこの世界ではヒロインのライバル。王子様の婚約者だけど、ヒロインに横取りされて、意地悪の限りを尽くす、嫌な女なわけ。
はあ、とため息をついた私は、ついついヒロインを目で追っていた。
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