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厳しいヒロイン
目の前に座ってるカレンに、私はすぐに戻るからと食堂でお茶をもらい走って戻ろうとした。そんな私の腕を誰かが掴んだ。
「王子? 様?」
目の前にはさっき、カレンに意見されていたらしい王子が立っていた、眉根を寄せて。
「君、カレンに何を言ったんだ」
「はあ?」
「彼女、もう、お付き合いはできませんと言ってきた」
ああ、あの調子ならそうだろう。
「昨日まで仲良くお茶をしたり将来について話していたのに。こんな急に心変わりするはずがない。君が何か脅すようなことを言ったんだろう」
えー……
ゲームでなんてかっこいいの、と推していた相手からボロカスに言われてる。
しかもきれいな顔を歪めて。
「なんて醜悪なの!」
へ? 私が言いそうになった言葉が後ろから響いてきた。
振り返るとそこにはヒロイン、カレンが仁王立ちしている。
「カ、カレン?!」
「カレン様?!」
「アレクシナ様が遅いから気になってきてみたら、いったいあなたは自分の立場というものを考えたことがあるんですか! 一国の王子ともあろうものが! こんなにきちんとしたしかも美しい婚約者がいるというのに、他の女に粗相して、国民になんと説明するんですか!
その相手はあなたなんだけどと思いつつも、あまりの勢いに二人してまるで母親から叱られているみたいだ。
カレンってこんなに規律やら道徳やら、厳しいタイプだったっけ?
それじゃあゲームにならないよね。
うなだれて説教されてる王子を横目に、私はふと義理の母親を思い出していた。
現世での私は結婚して数年目、まだ子どもはいなかった。旦那の両親が近くに住んでいて、お義父さんはのんびりした口数の少ない人で、お義母さんはうるさい人だった。とにかく、きちんとしてないと気がすまない。掃除や洗濯、家事もそうだが、間違ったことが許せないタイプ。
悪いことではないとは思うが、もう少しゆるくなってくれてもいいのにと思っていた。
かく言う私は正反対でよくいえばマイペース。掃除も洗濯も家事全般苦手。実の母親から結婚すると聞いて心配されまくり、反対までされるほど。
だからお義母さんと合うわけがなく。滅多に家にも寄り付かなかった。
目の前のヒロインはとにかくかわいいのに、王子を叱るさまはマジお義母さんだよ。
私や旦那もご近所の溝掃除当番を忘れて眠りこけてて一緒に叱られたことあるし。
なんて今更ながら懐かしいような、嫌なような、妙な気分にさらされていた。
だけど、これってまずいんじゃない?
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