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すべては推しのため
ゲームの世界がどうかはわからないけど、なんちゃって中世ヨーロッパファンタジー世界、不敬罪ってありそうよね。
「は、はい!」
いきなり手を挙げた私。
「カレン様! もう王子様も私も大丈夫です! そうですわよね、ね!」
すっかり気が抜けた王子は虚ろな目でこちらを見るとこくりとうなづいた。
「ほらね!」
とにこにこして王子の腕をつかみ、
「さあ、参りましょう」
と廊下を進み生徒会室へと連れて行った。授業が始まるこの時間は誰もいないはずだ。
「大丈夫ですか?」
「ああ」
私は持っていたお茶を王子に飲ませた。
「あの、クロード様」
おずおずと顔色をうかがってしまう。なんせ憧れの王子は疲れてても絵になるのよね。
「カレン様を怒らないでくださいね。あんなふうに怒ってくれたのもすべて国のことを思ってのことなんですから」
「国……」
顔を上げこちらを見てきた王子に私は大きくうなづいた。
「ええ、国のこと国民のことを一番に考えて」
「そうか」
王子は小さくうなづき返した。冷静そうだし、これなら大丈夫かな。
「じゃあ、怒ってませんね」
「ああ」
「本当に?」
「怒ってない、というか。君こそ怒ってないのか」
「何がです?」
「私やカレンに対してだ」
ああ。そういうこと。
確かに婚約者の私。これって、浮気だもんね、怒って当然か。
「そうですねえ お二人が好き合ってるならそれでいいかなと思ってます」
ゲームではやっぱり王子と一緒になるルートが一番好きなのよね。
顔を下に向けた王子をみつめてしまう。やっぱりショックだったのかも。
好きあってるとしても、あんなに怒られちゃあ、ねえ。
だが、うつむいた王子がいきなり顔を上げた。
「国のためと申したな」
「え? ええ、そうですけど」
「なら私のことを嫌ってるわけではない。そうだろう?」
「まあ、どうなんですかね」
期待を込めた目をキラキラさせてる王子に、
「あの私、聞いてきましょうか」
なんて言ってしまっていた。
なんで二人のために悪役令嬢が右往左往してるのよ、とは思うけど。
すべては私の個人的推しカップルのため。
一肌脱ぐしかないでしょう?
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