ヒロインの正体

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ヒロインの正体

「カレン様、和郎さんって」 驚いてこちらを見たカレンは、 「ああ、それは、その」 言いにくそうなカレンをいつもだったらもういいですよと止めそうだがここは追求せずにおられない。 「あの、もしかしてカレン様じゃないとか、中身は違うとか、まさかそんな、ねえ。そんなわけないですよね」 自分でもしどろもどろで何言ってるのかわからない。 だが。 ぴたりと泣き止んだカレンは、こちらをじっと見つめてきた。 「知ってるんですか? 私のこと」 「え?! いや、そんなことは、なんというか、そんなお話があるなあなんて」 「話?」 「ええ、転生ものっていって流行ってて」 思わず言ってしまったが、「なーんてね」と苦笑いする私にカレンは、 「私……日本人です。正美っていいます」 おうっ…… まじか、そうじゃないかと思ったけど。 目の前の憧れのヒロイン、カレンはそれはそれはかわいくて。 まさか転生したお義母さんだなんて。 「ごめんなさい。変なことをいってますわよね」 うつむいたカレンは「ニュート様が夫に似ていて」と言う。 柔和そうな笑顔は確かににてるかも。きっと若いときのお義父さんはあんな感じだったんだろう。この世界に来る前には私にも夫がいて、その夫の母親が正美。つまり目の前のカレンはわたしのお義母さんってことだ。 まじか……お義母さん。可愛くなっちゃって。 小さな肩を震わせてお義父さんに会いたがる姿に私は胸が痛んだ。 私がこの世界に来たのは事故のせいだ。 車の運転をしていて、その車の助手席にはお義母さんが乗っていた。 ふたりしてこの世界に転生してしまったんだ。 お義父さんは真面目すぎる、面倒なタイプのお義母さんとは正反対の性格でいつもにこにこと笑顔を見せている、そんな人だ。 お義母さん、お義父さんのこと本当に大好きだったんだなあ。 目の前でめそめそと泣いているお義母さんを慰めずにはいられない。 「カレン様、大丈夫ですよ。きっとおとう……ご主人に会えますよ」 「そうでしょうか」 「もちろん、運命の相手なら絶対に。私、祈ってます」 いい加減なことを言っているかもしれないが、私は本気で祈っていた。 そんな私を見つめたカレンの顔が明るくなる。 「ありがとう。アレクシナ様、お優しいんですね。私、お友達からこんなふうに優しく言われたことなくてとても嬉しいです」 また泣いてしまいそうなカレンにわたわたしてしまう。 あんなに強い人だと思っていたのに。 目の前のお義母さんは別人で。姿がヒロインなんだから当然とはいえ、私の知らないお義母さんはいっぱいいるんだなあ、と妙に納得してしまう。 友だちになれないタイプと思っていたけど。 お話のヒロインと悪役令嬢ももしかしたら友だちになれてたのかも、なんて思ってしまう。
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