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「ただいま」と私が学校から帰宅すると必ず「おかえり」と母の声が聞こえるはずだ。
それなのに、今日は帰宅した私を出迎えてくれる声は聞こえない。
昨日、受験する高校の話をした時に偏差値が低いから、そこは辞めておきなさい。恥ずかしい。と母に言われて、大喧嘩をした。
だから、ちゃんと今日は謝ろうと思っていたのに……。
買い物にでも行ったのだろうか?
真っ白な靴下は、学校指定のソックスだ。
靴下で家に上がると怒られるけれど、スリッパを履くのがめんどくさい私にとっては、靴下で充分。
スリッパを履いてない事が、母にバレないように摺り足で歩く。
「おかえり」の返事はないけれど、母がいる可能性はゼロではないからだ。
リビングに繋がる扉を開けると、どうやらは母はいないのがわかった。
何だ、それなら大丈夫じゃん。
私は、ソファーに向かって歩き出す。
「つめたっ」
トマトジュースを飲みかけで、台の上に置いていた母のせいで、グラスが倒れ足にかかった。
「最悪。私がやったら怒鳴りつけるくせに」
私は、テーブルの上にグラスを置く。
「グラスが割れなかったのが、不幸中の幸いよね」
しっかり、グラスをテーブルの上に置いてから、ポケットからハンカチを出す。
白いハンカチは、丁寧にアイロンがかけられていて、手をふくとベットリとトマトジュースがついた。
もし、母にハンカチを汚した事を怒鳴られてもグラスを置いた母が悪いのだ。
手を拭いてからハンカチもテーブルの上に置く。
ソファーに行くまで、物が渋滞して進むのが大変だ。
やっとの思いで、ソファーについた私はテレビをつける。
テレビは、1日1時間までなんてよくわからないルールを父に作られているせいで、大好きなアイドルのドラマがたまりまくっていた。
そのせいで、同級生といつも話が合わないのだ。
だから、母がいない今日ぐらい謎ルールから離れよう。
私は、3話もたまったドラマを見てから、好きなアイドルの映画までを見る。
見終わって時計をみると、午後八時を回っていた。
いつもなら、七時過ぎには「ただいま」と父が帰ってくるのに……。
今日は何故か遅い。
まあ、こんな日もたまにはあってもいい。
だって、ゆっくりアイドルのライブのBlu-rayを見れるから。
Blu-rayを入れて再生すると、大好きなアイドルがハートを作りながら可愛く踊り始める。
ピンポーン
軽快なステップの曲に変わってすぐにインターホンが鳴った。
障害物を通り抜けて、インターホンに出ると「警察だ!開けなさい」と言われる。
こんな時間に、女子高生が1人で家にいるのが危ないから来てくれたんだ。
そうに違いない。
洗面所でいったん手を洗ってから。
私は、玄関を開けに行く。
あーー、それよりも足の裏についたトマトジュースが歩く度に広がっている。
最悪。
警察にバレたら、私が捕まっちゃうじゃない。
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