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「頼まれたモノ、これで良かったの?」
私はテーブルの上に小さな紙袋を置いた。中身の化粧箱が硬い木のテーブルに当たってコトリと小さな音を立てる。キッチンからティーセットを運んできた彼女の表情が、パッと華やいだ。
「ありがとう。お金払うね!」
「いや、お土産だから……」
私が渋ると、彼女は左右に首を振った。
「私が『買ってきて』ってお願いしたんだから、お代は払うわよ」
ティーポットから琥珀色の紅茶をカップに注ぎながら、彼女は歌うように続けた。
「ついでにって無理にお願いしたの、私なんだしぃ。そもそも地方に行くのは仕事の出張だったのにごめんねぇ」
ウェッジウッドのカップにふわりと漂うアールグレーの香り。縁がフリルのような白いお皿にはキャットタンチョコとシガールが綺麗に整列している。
相変わらず彼女の美意識は健在のようだ。
テーブルについて、いそいそと紙袋を広げた彼女は、中を覗き込んでほうっと溜息をつき、チラリとこちらを上目で見てから化粧箱をテーブルの上に取り出した。
「そんな勿体を付けなくても……。買ってきたの、私なんだし」
苦笑まじりにいう私に、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべて答えた。
「ホントにありがとう。これ、欲しかったんだぁ。ご当地限定インクはそこに行かないと手に入らないから」
白くて小さな化粧箱には「青の洞窟」と書かれたシンプルなラベルが貼られていた。
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