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「あー……これ、遊色出るんだぁ」
「遊色?」
「うん。インクって色を作る時いくつかの顔料を混ぜるんだけどそれが紙によって分離して出てくることがあるの。狙って作ってる場合もあるけど……。ほら、ここ、水で薄めた境のところに紫色が浮いてきたでしょ?」
そう言われてみると確かに薄まった青いインクの端に淡い紫になっている部分がある。
彼女は目をキラキラさせて、また文箱から一枚紙を取り出した。今度のはコースター位の小さな四角い紙だ。
「今書いてた紙がトモエリバーね。こっちの小さい紙がバンクペーパーって言って、モノによっては発色が違ったりして面白いんだよね」
「はぁ……」
ちょっと彼女の熱量に付いていけなくなってきつつある。
インクってこうして楽しむモノなんだっけ?
私は、アールグレーを一口飲んでシガールに手を伸ばした。
「やっぱ、こっちのが遊色がハッキリ出るわぁ。グラフィ―ロだったらどうかなぁ」
嬉々として新しい紙をまた一枚引っ張りだす彼女。まぁ、お土産を楽しんでるようで、その点については悪い気はしない。
ふと、彼女の文箱の隅にもともと入っていたインク瓶が気になってきた。
「ねぇ、そのインクは何?」
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