青の深淵

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「ああ、これ? 普段使いしてるお手軽インクよ」  彼女は手を止めて、文箱からインク瓶を取り出した。 「パイロット? ……ブルー……ブラック?」    瓶のラベルに顔を寄せて、私は首を傾げた。パイロットって言うと、かの有名な消せるボールペン「フリクション」位しか思い出せないが、日本の文具メーカーだということは解る。 「パイロットってこんなの作ってたの?」 「いやいや、こっちのが歴史が長いんだって! 一瓶500円もしないのに濃淡は綺麗だしフラッシュは楽しめるし凄くお得なインクなのよ」 「?」  また何か知らない言葉が彼女の口から飛び出した。 「うーん。一言で説明するのは難しいなぁ……」  キュッとプラスチックの蓋を捻って、彼女は蓋の裏を私の目の前に持ってきた。 「蓋裏のさ、ネジのとこ見てくれる?」 「?」  アチコチはねたインクで使い込まれた感じのする蓋の裏側。  ネジ山のところにこびりついたインクが僅かに赤く色づいている。蓋を傾けると、それはキラリと金属に似た光沢を放った。 「なに? これ……」 「これがね、フラッシュって言われる現象。インクが乾くと金属光沢みたいに光を放つの。金に光るタイプのインクもあるのよ。海外ではこのタイプのインクを光沢(シーン)インクっていうわね」 「へぇ……。面白いのね」 「書いてみる?」 「え?」    私は目を瞬いて彼女を、インク瓶を見返した。
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