青の深淵

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 彼女のお土産にと購入したインクは、あんなにちっぽけな小瓶に収まっている代物なのに、観光地土産の菓子折りくらいのお値段だった。インクって結構高価なんだなぁと思って、でもお土産だからと思って購入したのだ。自分が買って使うかとなったら気が引ける。  でも、これは一瓶で500円しない廉価なモノらしい。 「今時、ガラスペンも100均で売ってる時代なんだよね。これ、なかなか状態良かったからレギュラー選手にしてるやつ。使ってみて」  迷ってる私にお構いなく、彼女は文箱からブルーの細身の軸のガラスペンを取り出した。さっき「青の洞窟」を試し書きしていたナントカっていう紙をこちらへグイッと押し出す。 「私、ガラスペンなんて使うの初めてで……ちょっとこわいなぁ。先っぽ、折れちゃったりしない? 力加減ってどうすればいいの?」  心配して訊くと、彼女はフッと口角を引き上げて笑った。 「字を書いたくらいで先が欠けたりしないわよ。インク瓶の縁にペン先をぶつけないように、それだけ注意してもらえばいいわ」  ガラスペンの軸はひんやりとして私の手の内に収まった。意外にしっくりとくる重さ。こわごわとペン先をインクに浸す。コレで字が書けるのはちょっと不思議だ。そっとペン先を紙の上に滑らせる。 「あっ……」  案外とつるりとした表面の紙の上に、思ったより大分太い線が乗って驚いた。 「最初はインクの加減が難しいわよね。でも、それくらい太い線だと乾いた時のフラッシュが解りやすくて丁度いいわ」 「……そうなんだ?」  続けてスルスルとペン先を動かしてみる。ガラスのペン先と紙がすれる音が耳に心地良い。「青の洞窟」よりも深い青。でも…… 「ブルーブラックって言うから……もうちょっと黒いのかと思ったら、そうでもないんだね」  普段、黒のボールペンばかり使っているからか、随分と青みが強いように思った。もう少し黒ければ普段使いできそうなのにな。 「ああ、パイロットやプラチナはブルーブラックの中では青味が強い方だから。もっと暗めがイイならあるわよ。試してみる?」  ガラスペンの先をウェットティッシュで拭っていた彼女は、ニッコリ笑って文箱にペンを収める。 「ブルーブラックって、一色じゃないの?」  私は目をパチクリさせて顔を上げた。彼女はフルフルと顔を左右に振って小首を傾げた。 「メーカーに寄って大分違うのよ。うんと深い系のブルーブラック、幾つか持ってくるわね」
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