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「えー? これ全部『ブルーブラック』なの?」
目の前に並んだ大小形の違うインク瓶の群れに、驚くというより呆れ返ってしまった。
「『ブルーブラック』っていうか、深い色あいのそれ系ね。メーカーによって個性的な商品名を付けてたりするから……」
どれから使ってみる? と彼女はニコニコして私を見つめる。と言われても、どれから手を出していいのか分からない。
「え……と、じゃぁ、一番のお薦めから?」
「私の趣味でいいの?」
「ええ」
イイも悪いも、自分の趣味さえ分からない上に、こうも多いと選びようがない。
「じゃぁ、私の推しはこれだなぁ」
彼女は安定感のあるオシャレなインク瓶を摘んで私の前に置いた。
「ペリカンのエーデルシュタイン、タンザナイト。宝石の名前を冠したインクでね、中でもこの色は人気色でなかなか手に入らないのよ。紫がかった深い濃紺が好みなの」
「へぇえ……」
なんだかお高そうなインクだなぁ。
私はキョロキョロと視線を動かして、ふと見たことのあるメーカー名に目を止めた。
「あ、これは……聞いたことある。セーラー万年筆の……」
「それもいい色よ。パイロットより深いブルーブラック。結構くっきりフラッシュが出るタイプよ。フラッシュが出るのがいいの?」
「うーん。普段使いするなら、出ない方がいいかなぁ」
「なるほど……」
彼女は頷くと、いくつかのインク瓶を取り除き始めた。
「え? 何?」
「フラッシュが出るタイプを外しておくの。セーラー、パイロットのブルーブラック、ナカバヤシのネイビーブルー、プラチナのオーロラブルーあたりは結構フラッシュ出るから」
「そうなんだぁ……」
それでも目の前のインク瓶は一向に減った気がしない。
「あとお薦めするのが、石丸文行堂のバーインクで……」
彼女は次の一瓶を私の前にチョンと置いて説明を始めた。
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