青の深淵

6/9
前へ
/10ページ
次へ
 「えー? これ全部『ブルーブラック』なの?」  目の前に並んだ大小形の違うインク瓶の群れに、驚くというより呆れ返ってしまった。 「『ブルーブラック』っていうか、系ね。メーカーによって個性的な商品名を付けてたりするから……」  どれから使ってみる? と彼女はニコニコして私を見つめる。と言われても、どれから手を出していいのか分からない。 「え……と、じゃぁ、一番のお薦めから?」 「私の趣味でいいの?」 「ええ」  イイも悪いも、自分の趣味さえ分からない上に、こうも多いと選びようがない。 「じゃぁ、私の推しはこれだなぁ」  彼女は安定感のあるオシャレなインク瓶を(つま)んで私の前に置いた。 「ペリカンのエーデルシュタイン、タンザナイト。宝石の名前を冠したインクでね、中でもこの色は人気色でなかなか手に入らないのよ。紫がかった深い濃紺が好みなの」 「へぇえ……」  なんだかお高そうなインクだなぁ。  私はキョロキョロと視線を動かして、ふと見たことのあるメーカー名に目を止めた。 「あ、これは……聞いたことある。セーラー万年筆の……」 「それもいい色よ。パイロットより深いブルーブラック。結構くっきりフラッシュが出るタイプよ。フラッシュが出るのがいいの?」 「うーん。普段使いするなら、出ない方がいいかなぁ」 「なるほど……」  彼女は頷くと、いくつかのインク瓶を取り除き始めた。 「え? 何?」 「フラッシュが出るタイプを外しておくの。セーラー、パイロットのブルーブラック、ナカバヤシのネイビーブルー、プラチナのオーロラブルーあたりは結構フラッシュ出るから」 「そうなんだぁ……」  それでも目の前のインク瓶は一向に減った気がしない。 「あとお薦めするのが、石丸文行堂のバーインクで……」  彼女は次の一瓶を私の前にチョンと置いて説明を始めた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加