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空気を読まずに開封する。
仕方ないので会計を終えてから橋本と二人、店の外で待つことにした。さて、と橋本が例の食玩を取り出す。そして開封し始めた。おい、と慌てて声をかける。
「綿貫が来てから開けろよ。その方が盛り上がるだろ」
「もう開けちゃった」
「はえぇよ! マイペースか!」
「いいじゃん、どうせあいつが欲しいのは中身なんだし。とっとと結果がわかった方がいいって」
「冷たいなぁ。何が出るかな? ってわくわくするのがいいんじゃん」
俺の制止に全く耳を貸さず、橋本は開けた箱を逆さまにした。
あ、と同時に声が漏れる。そこへ、お待たせ~、と綿貫が戻ってきた。
「当たった」
橋本が端的に結果を伝える。え、と笑顔のまま綿貫が固まった。
「ユウユウソードと右腕、当たった」
「……え?」
はい、と差し出されたが、綿貫のフリーズはまだ解けない。一方橋本は、綿貫の手を取りユウユウソードを握らせた。
「おめでとう」
全く感情が籠っていない。手の中のユウユウソードを見詰めた綿貫は、橋本へと視線を戻した。無表情の橋本が黙って親指を上げる。
「今、どんな気持ち?」
気になって綿貫に問い掛けてみると。
「……全部集められた達成感と同時に、俺がいないところで結果が出たことに対する虚無感がせめぎあっている」
ほらぁ、と俺は橋本を指差した。
「だから言ったじゃん! 綿貫が来てから開けようって!」
「知らないよ。どうせ結果は同じじゃん」
「結果だけじゃなくて過程も楽しませてやれよ! お前が一分待っていれば、さあいよいよ開封です! 三人で持ちよった九百円、それで買った三箱の中にユウユウソードは入っているのでしょうか!? 早速開封してみましょう! まずは橋本さん、どうぞ! って盛り上がれただろうが! そういうこだわりを持てよ!」
「田中、そんな実況をするつもりだったの? お前って本当に友達想いだよね」
「まあな!」
「でも俺はそういうノリも面倒臭い」
「人の心とか無いんか!」
橋本と言い合う傍らで、駄目だ、と唐突に綿貫がこぼした。
「こんな無感動にゲットしたユウユウソードには、友情はあれども勇気も希望も努力も勝利も宿っていない」
友情と勇気だけじゃなくて、そんなに色々背負い込まされているのか、ユウユウソードも大変だな。
「もっと一生懸命ゲットしたい!」
「でももう手に入ったじゃん。おめでとう綿貫。ロボット、コンプリートだね」
橋本の言葉を、いいや、と綿貫はきっぱり否定した。
「橋本。今から俺と勝負しろ」
「俺の負けでいいよ」
どんだけやる気が無いんだよ。
「いいか。俺はお前に全力でぶつかる。だからお前も全力で受け止めてくれ」
綿貫は綿貫で聞こえないふりを貫いている。
「わかった。わー、強い。俺の負け。だからユウユウソードはお前にあげる」
橋本ものらりくらりと躱し続ける。
「何で勝負をしようか。短距離走か。町内一周マラソンか」
「二人もこの後、うちに来てゲームをやるでしょ」
「俺の家で冷凍たこ焼きの早食い勝負でもするか」
「ジュースもあるよ」
「ジュースの早飲み勝負か。望むところだ」
噛み合っていないのに微妙に噛み合いそうな、気持ちの悪い会話が続く。待て待て、と俺は二人を制した。
「落ち着けお前ら。自分を突き通そうとし過ぎだ。まず、今日はこの後橋本の家でゲームをする。だけど綿貫が肩透かしを食ってもやもやしている気持ちもわかる。だから三番勝負にしよう。種目は俺が決める。そのくらいは橋本も付き合ってやれ。お前だって新品のゲームを注文したのにバグでレベル七十からのスタートになったらリセットするだろ。つまり、何か、全然違う例えになっちゃったけど、そういう感じで勝負に付き合ってやれ」
「田中、例えが下手」
「バカなのに頭がいい風に喋ろうとするからそうなるんだ」
取り敢えずバカ二人に蹴りを入れ、まずは公園へと連行した。
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