食玩を賭けた勝負。

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食玩を賭けた勝負。

 さて、と腕組みをして二人の顔を交互に見遣る。鼻息の荒い綿貫と、ぼけーっとしている橋本の温度差がひどい。勝負になるのかな。 「三番勝負で綿貫が二勝したらユウユウソードは晴れてお前の物だ。逆に橋本が二勝したら橋本が持って帰ること。約束しろ」 「いらないよ、右腕と剣だけなんて」 「ふっ、それこそいらない心配だな。絶対、お前に二勝してユウユウソードを手に入れてみせる!」 「だろうね」  橋本は負ける気満々だ。その後ろ向きな余裕、俺が無くしてやるぜ。 「まずは第一回戦。種目は靴飛ばしだ。これなら運動が得意な綿貫と苦手な橋本でもいい勝負になるだろ」  おう! と綿貫は元気に応じた。対する橋本は無言のまま。どうせ靴を真下に落とせばいいや、くらいに思っているのだろう。だがその辺も抜かりはない。木の枝を拾ってきて、ブランコから五メートルくらいの位置の地面に線を引く。 「いいか橋本。ここを超えなかったら自動的にお前の勝ちとするからな」  えっ、と奴の顔に動揺が走った。 「三番勝負のうち、早くも一勝を手にするわけだ。ユウユウソードへ王手だな」 「ちょ、ちょっと待ってよ。何その変なルール。普通、超えなかったら負け、でしょ」 「今日は違う。超えなかったらお前の勝ち。右腕だけ持って帰れ」 「そんなルール、反対!」 「じゃあ賛成の人」  はい、と俺と綿貫は揃って手を上げた。何でだよ! と橋本が憤る。 「特に綿貫! このルールが無ければお前は絶対に一勝出来るんだよ!?」 「言っただろう。俺は全力でお前にぶつかる、だからお前も全力で受け止めろ、と」 「バカか! 満足感のために変なルールを受け入れるな!」 「いや橋本、そもそも綿貫を満足させたいから三番勝負をやるんだぞ。全力の勝負になるよう変なルールはいくらでも作る」  な、と綿貫と顔を見合わせる。お前ら、と呟き橋本は歯軋りをした。 「さあ、一発勝負だ。二人ともブランコに乗れ。ジャッジは俺がする」  よっしゃあ、と肩を回しながら綿貫が、面倒臭いなぁ、とぶーたれながら橋本が、それぞれブランコに立ち乗りをした。 「靴を放るタイミングは任意でいいからな。じゃあ、よーい、始め!」  二人が一生懸命漕ぎ始めた。制服姿の高校生男子が必死になってブランコを漕ぐ様はなかなか滑稽だ。急いでスマホのカメラを構えて動画を録り始める。何とか靴を飛ばす前に間に合った。やがて、えい、と橋本が足を振った。靴が綺麗な放物線を描く。見事に線を超えていった。よし、と橋本が拳を握る。線の手前に落とせば勝ちなのだが。俺が定めたルールながらややこしい状況だ。 「いっくぞぉ~!!」  おりゃあ!! と叫んだ綿貫は、これまた豪快に足を振り抜いた。 「あ」 「げ!!」 「アホ」  まあものの見事に真上へ飛んで行った。しばらく滞空していたが、重力に従い落ちてくる。そこは線の遥か手前。 「勝者、橋本!!」  高らかに宣言すると、っしゃあ! と橋本はガッツポーズをした。だがすぐに、いやいらないし! と我に返る。一方、綿貫は。 「クソぉ!! 橋本め、先に放って俺にプレッシャーをかけたな!?」  言いがかりでもない、だけど文句には聞こえる、微妙な抗議をした。関係無いね、と案の定橋本に切り捨てられる。 「ともかく、まずは橋本が一勝だ。じゃあ次の舞台に移るとしよう」  そう言うと二人は片足ケンケンで靴を取りに行った。その様も動画に収めた。  ところ変わって橋本家。部屋に上げて貰った俺達は、車座になった。 「第二回戦は格闘ゲームで対決だ。ただし、動画に録らせて貰う。もし橋本が負けたらクラスの男子全員に、橋本が綿貫に敗北したってさ! って、動画と共にメッセージを送る」 「今度は俺にプレッシャーをかける気!?」 「なに、順当にいけばゲーム好きの橋本が勝つだろ。ソフトは、そうだな。これにしよう。キッチン大戦争」  フライパンや鍋で殴り合う格闘ゲームだ。稀に出るレアアイテムの包丁を装備すると殺傷能力が格段に上がるので、一発逆転も狙える。  早速本体にソフトを差し込んで起動する。そして二人にコントローラーを持たせた。 「これも三回戦中二本先取で勝ちだったな。それで一勝ね」  二人揃って、ややこしいな、と首を捻った。安心しろ。俺がちゃんとカウントしてやる。橋本がすぐにキャラを決めた。綿貫は迷った末に、これ! と選ぶ。スマホのカメラを構えた俺は息を吸い込んだ。 「それじゃあ、ファイッ!」  三分後。コントローラーを持ったまま、綿貫はがっくりと項垂れた。まあ気持ちのいいボコられっぷりだった。そりゃそうだ。橋本はゲームバカだからな。 「俺の二勝だな」  橋本がニヤリと笑う。チクショウ、と綿貫は嘆きの叫びをあげた。 「包丁が出たんだからせめて俺に使わせろよ! 橋本は強いんだから!」 「知ったこっちゃないね。勝負の世界は甘くない」 「スポーツマンシップの欠片も無い奴!」 「俺、運動は嫌いだからね」 「ムカつくー!」  舌戦でも負けているな。ちなみに二戦目にゲームを選んだ時点でこの展開は予想出来た。だからちゃんと救済措置も考えている。 「まあまあ、綿貫にもチャンスをやろうぜ。橋本だって右腕はいらないんだろ」  橋本は、うん、と頷いた。綿貫の目には光が宿る。……どうやったんだ? 「じゃあ三人で大富豪をやろう。三番勝負から五番勝負へ変更な。んで、綿貫が大富豪になったら俺と橋本に買って二勝したって扱いにして星は五分、富豪だったら一勝二敗、大貧民だったらゼロ勝三敗で救済無し。これでどうだ?」  提案すると、ありがとう田中! と俺の手を握り締めた。 「チャンスをくれて恩に着る!」  まあ俺がルールやゲームを決めたせいでお前はボコボコに負けたんだけどな。 「橋本も、それでいい?」  確認すると、わかった、と若干渋々ではあるが頷いた。そして本棚に置かれたトランプを持ってきてくれる。受け取りよく混ぜ三人に配る。 「じゃあ第三戦、大富豪。開始!」  十分後。 「大貧民じゃねぇか!!」  俺があがったのを見届けて、綿貫がトランプを床に叩き付けた。 「お前、革命に頼りすぎ」 「革命返しをされた瞬間、顔色が真っ白になっていたな」 「だって手札が弱かったんだもん! 革命に賭けるしか無かったんだ!」  終了~、と告げる。綿貫の全敗だ。やけくそ気味に寝転がった綿貫に、あのさ、と橋本が声を掛けた。 「マジでいらないから右腕はあげる」  しかし綿貫は首を振った。 「敗者にユウユウソードを持つ資格は無いのだ」 「いやむしろ持って帰って欲しいんだけど」 「駄目だ。マッスルピンクとゴイガーンに顔向け出来ない」  どんだけ真摯に向き合っているんだ。その時、そういえば、と橋本が呟いた。
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