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ゆっくりと振り返ったその顔が、ニタァと意地悪く笑っている。
私は動揺を隠しきれず、瞳をうろつかせた。
「困ることって...そんなの当たり前、困ることだらけじゃない。
まず、職場同じでしょ?
同期でしょ?
その他色々...
要するに、気まずいじゃない!
意識すると、仕事だってやりにくいしさ。
そ、それに。
私には...
心に決めた人が」
「誰」
「そ、それは杉」
つい乗せられて、言ってしまいそうになった私は慌てて口を噤んだ。
だって彼は、あの人は…
「杉原副支店長、だろ?」
「なな、何故それを」
思わずベッドボードに張り付いた私に、彼はため息混じりに告げた。
「そんなこと。
昨晩散々俺に向かって吼えてたじゃねえか。
ほら、そんなことはどうでもいい。長谷川も早く服を着ろって。
…あーあ。
見ろよ、とうとう延長に突入してしまった」
彼は着替えを私の胸元に投げると、諦めたように勢いよくベッドに腰かけた。
「祥善寺…あの私、ゆうべ何か言った?」
見覚えのない真新しいTシャツを広げつつ、恐る恐る尋ねると、彼は私を横目に睨んだ。
「ああ、聞きたくもない愚痴を散々な。
大体何だよ『心に決めた人』なんて。
知ってるとは思うが、あの人既婚者だぞ」
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