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手をつなごう
家がこの辺だ、といっていたのは比喩ではなかったみたいだ。都心のビルの谷間を練り歩くと白っぽい壁面の瀟洒なマンションがみえてきた。
「ここの真ん中くらいの階」
「へぇ」
促されエントランスへ進むと、オートロックだった。
監禁されたら出られないな
「俺の実家はもうないし、俺も金はないから。言っておくけど」
念押し念押し
「えっ?そんなのさっきのでわかってるよ。あ、着いた。行こ」
「引っ張らないても…」
男と手をつないで歩くっていうの慣れないけど、逆らっても行く所がないし。そんなに一人が寂しかったのだろうか?
渋々小学生の遠足の様に手をつながれて歩く。淡い茶色の癖毛が目の前に揺れている。自分は一人っ子だったが、いきなり兄弟ができた雰囲気だ。
「お邪魔します」
「はーい」
玄関を抜けると、想像よりも広々とした空間に出た。モノトーンが基調のシックな色味の部屋だが、たまに彼の言う好きなレトロアイテムが飾られている。
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