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耀くんから『乗れたよ』ってメッセージがきて、1人で「わーい!」ってバンザイして、全然進まない意地悪な時計とにらめっこした。
一緒にいる時はほんとに早いのに、こんな時はどうしてそんなにぐずぐずするの?
早く会いたい
一緒に住んでたって足りない
ーーー耀くん、時計進まないよ
ーーそうだね もうちょっと待っててね、碧
ーーーもういっぱい待ったよ
ーーうん、そうだね 飛んで帰りたいよ、碧のとこに
ーーー耀くんがいないと本も読めなくなっちゃったよ
ーー大変だ 急いで帰るね
ーーー耀くん大好き
ーー俺も碧のこと大好きだよ
だいすき 僕の耀くん
ーーもうすぐ駅だよ この後電車乗って帰るからね、家で待ってて
ーーーうん
あと何分ぐらいかなって、電車の時刻表を検索した。終電近くは本数が少ない。
早く早く
迎えに行きたいけど、家で待っててって言われてる。
僕は大丈夫だと思ってるけど、約束を破って耀くんを悲しませたくない。
たぶんこの電車、と思う電車の到着時刻と、うちまで歩いて帰ってくる時間を計算してベランダに出た。夜風が涼しい。
僕の足で10分だから、耀くんなら7、8分で着くかもしれない。
そう思って、5分くらい前、を目安にしたんだけど。
あ! あれ、あのすっごい早足の、耀くん?!
暗いけど、街灯に照らされたあのシルエットは耀くんだと思う。
坂道を登ってくるすごくスタイルのいいシルエット。
あんなバランスの良い人、滅多にいない。
だからあれは僕の耀くんだ。
ベランダから身を乗り出して下を見る。足早に登ってくるその人が、街灯の下で上を見上げた。
ほら、耀くん!!
必死で手を振ったら振り返してくれた。そしてまたすごいスピードで歩いてくる。
耀くん、スーツのまんまだ。
すっごい格好いい!
僕は耀くんが見えなくなるまで見て、大急ぎで玄関に向かった。
ドアを開けて待ってたら「不用心だ」って怒られそうだから、ドアの内側でジリジリしながら待った。
ほどなくして遠くから足音が聞こえ始めた。
近付いてくる 近付いてくる
これはいいよね?!って思ってドアガードを解除した。
チャリチャリいう鍵の音。
もう開けてもいい?!
ザリッと鍵の挿し込まれる音がして、ツーロックの上のサムターンが回された。同時にガチャッと下のサムターンを回す。
ドアがバッと引かれた。
「ただいま、碧!」
「ようくんっっ」
スルッと入ってきた耀くんが、荷物をどさどさっと落として僕を抱きしめてくれる。
「おかえり、耀くん……っっ」
ぎゅうっと抱きついた耀くんは、しっとりと汗をかいていた。
急いで帰ってきてくれた
「ただいま。…もう帰れないかと思ったよ。酔っ払いは理屈が通らないから……」
僕にすりすりと頭を擦り寄せた耀くんが、その大きな手で僕の頬を撫でた。
「もう何日も経った気がする。碧不足で死にそうだ……」
言葉の最後の方ではもう、唇が触れていた。
帰ってきた 僕の耀くん
『ただいま』って言って僕のところに……
キスをしながら耀くんが後ろ手に鍵をかけた。
2人だけの家で、2人っきりになれた。
耀くんのスーツの上着の中に手を入れて背中を撫でる。
シャツ、湿っちゃってる。
「あ…っ」
「ん?」
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