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4 鈴木 隆の海中記録
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《八月七日・二百メートル》
ホテルに来てから一週間。深海の入口となる二百メートルを潜った。ここからは、ほぼ太陽光が届かないというだけあって暗い。ヘッドライトの明かりだけが頼りだ。
それほど、真新しい魚はいない。
ライトに反射する銀色の真鱈やスケトウダラの姿を発見する。
変わったところだと、ゆっくりと足を動かすタラバガニだろう。これには、エリンが見とれていた。
後で鮮やかな赤色をしたカニの絵が描かれるかもしれない。
朝・夕の体調記録を普段通りおこなう。
ホテルに来てから一週間。持ってきた本は読み終わり、今はⅮの本を借りている。彼は海洋生物についての本以外に経済や株式投資の本などを持ってきていた。
そして、エリンは読書には興味ないらしく、縄跳びや腕立て伏せをして時間を潰している。
《八月十日・千メートル》
ここからは、海の深海層の一つ前で斬深層という。
一般の魚をまったく見なくなった。
地上からたった一キロ下の場所というだけで、妙な形状や生態をした生物が現れる。不思議なものだ。
泳ぎはじめてまず発見したのは、マヨイアイオイクラゲ。
全長十メートル程度の細長いクラゲは、数少ない獲物をおびき寄せるため、青く光っていた。
面白いのはこのクラゲが一つの生物ではなく、数珠のように個虫が連なっている点だ。一糸乱れぬその姿は、まるで黒いキャンパスに蛍光色で一筆加えたかのよう。
美しかった。
他にはオニヒゲやムネダラという魚。
それから、メダマホウズキイカを観察できた。
このイカは目のしたが光る。ホテルに持ち帰り、あぶって食べたい所だが、深海のイカは体を浮かすため表皮にアンモニアがある。匂いが強くて食べられたものではないから実行はしない。
ホテルに帰り、体調を記録する。
陽気なフランス人が電波が無いため、通話もネットもできないスマホで、音楽をかけ始めた。するとエリンが音楽に合わせてアイリッシュダンスを踊りだす。
靴の踵を鳴らすリズミカルなダンスに、Ⅾも参戦し、俺も加わった。深く暗い海にあるホテルの一室がダンスホールに。
皆、深海生物との出会った喜びを爆発させ、手足を振りまわして踊りくるう。
《八月十五日・六千メートル》
月末までの旅も、ちょうど折り返し。この日は、深海のなかでも超深海と呼ばれる層にきた。
ここまでは大気圧潜水服が水圧に耐えられる深さだと聞いているので、海へくりだす。
宇宙空間のような暗黒が広がる。
ヘッドライトの明かりは強力なはずなのに、照らせるのは五メートル程度。
深海二百メートルでは、ライトを照らすと海中に青みが見えたが、ここでは黒色を切り開くかのようだ。
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