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「ジャパニーズは勤勉だそうだけど、調査のほうを熱心にやりすぎるなよ。主な目的は、海中ホテルでの住民の状態確認らしい。
水深何メートルくらいが快適なのか、何泊の宿泊が見込めるのか等に活用するんだろう。朝と夕方の体調の記録は絶対に忘れないように」
Ⅾが俺に釘をさして、テーブル上にある機器を軽く叩いた。
ティッシュ箱くらいの大きさで手を入れる穴がある。横からコードがのび、頭にかぶるヘルメットへ繋がっている。脳波も測るようだ。
「食事は当番制にしましょう。冷蔵庫には、皆の国の料理を作れるくらい色々な食材があったわ」
フレンチに日本食、アイリッシュ料理が食べられるのか。
電波の届かない水中ではテレビもネット環境もないから、食事は数少ない娯楽になるかも知れない。
「あと調査中止の赤ボタンは寝ぼけて押すなよ。報酬をもらえなくなるから気を付けるだろうけど」
Ⅾが部屋に響く高笑いをする。
両手をこすり合わせて続ける。
「さあ、もうすぐ水深百メートルで止まるぞ。ダイビングの準備をしよう。オレは先に準備するぜ」
Ⅾは隣室へそそくさと向かった。
俺も珈琲を飲みほして、エリンと隣室へ行く。
皆が潜水服を装着し終わると、Ⅾが梯子下にあるボタンを押した。途端にハッチが開き、水が溢れてくる。俺たちは重力から解放されて水中を浮上していく。
部屋が水で満たされれば、梯子を使うこともなくハッチから出られるわけだ。
戻ったらボタンを押し、部屋から水が排出されて元通りという仕組み。
水深百メートルといえど太陽光は弱い。
ヘッドライトも長い距離を照らせないので、あまり離れて行動はしないようにする。二人の動向に注意しなければ、すぐに濃紺の世界に取り残されてしまう。
ホテルは海中で止まっているので、そこに戻ればいい話ではあるが、こんな孤独な世界で一人にはなりたくはない。
潜水服はパワーアシストスーツの技術を活用しているようだった。
思ったより体が軽く感じられ、泳ぎやすい。
電動付き自転車をこぐように手足が動く。
しばらくすると、Ⅾのヘッドライトがこちらを照らした。ハンドサインをしている。手のひらをこちらに向けて『止まれ』。
顔を上に向け、広げた両腕を鳥のように羽ばたかせている。
これは……通常、もっと浅い所にいるはずだが『マンタ』だ!
俺もエリンも海中を見上げる。
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