3 海中調査がはじまる

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 そこにはマンタの群れがいた。  深く潜ることもあるとは聞いていたが、この水深で拝めるとは。  白い腹にコバンザメを従え、優雅に泳いでいる。三メートルはあるマンタが複数、頭上を泳ぐ姿は壮観だ。両手をひらひら上下させる彼らの姿は、柔らかな毛布がなびいているよう。  今回の調査で初めて観察する海中生物に、感じ入る。  マンタ達が通り過ぎるまで、俺たちはその場に立ち止まった。  結局、他は小魚が多く、その日の大きな収穫はマンタの群れだけだったが満足だ。なかなかじっくり観察できるものではない。  そして、夕方の体調記録のために船に戻る。  心拍数と血圧、脳波を機器で測りながら、俺たちはテーブルで話し合う。 「この水深でのマンタは初めて見たよ。水深十メートル程度のほうが魚は多いけど、深い場所だとより生態が分かるのかもしれない」  俺は身振り手振りをくわえながら口を動かす。  興奮が抑えきれない。 「記録が終わったら、マンタについて部屋のノートに書かないといけないわね。私は絵も描こうかな」 「お、芸術の都に住むパリジャンとしては気になるな。描き終えたらぜひ見せてくれ。アイリッシュの幻想的な絵がイメージできるよ」  Ⅾが目を閉じて顎をあげる。 「しかしなんでパソコンとかじゃなくて、ノートに鉛筆記入なんだろう。この機器だって測った後に紙が出てくるし。後でノートに張り付けるのも面倒だ。 デジタル媒体に記録した方が、地上に出た後にデータ送信とか便利だろうに。アナログすぎる」    俺のこの疑問には、Ⅾが回答してくれた。 「細かいことを気にするんだな。さすが繊細なジャパニーズ。空港で案内人のボーハが言っていたぜ。 オレたちの雇い主は、今でこそ持ち直したが、仮想通貨で破産しかけるほどの大損をしたんだと。それから貴重なものはなるべく電子化しないらしい。変わった奴だよな」  Ⅾは俺の背中を叩き、大口を開けて笑った。  どこまでも陽気だ。  まあ、これから一か月、深い海の中で一緒に過ごす相手としては良いのかもしれない。
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