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結婚して三十年、夫が定年を迎えた。
「おかえりなさい、長い間お疲れさまでした」
玄関で夫を迎える。
「「お父さんおかえり」」
社会人になり、県外で働いている娘二人も有給休暇を取って帰省し、父親の帰りを待っていた。
「ただいま。なんだか明日から無職なんて信じられないな」
「うふふっ、そうよね。お風呂にします? それとも食事?」
「風呂かな。てか、俺が先に入っていいのか?」
「いいよ、今日は特別」
次女が得意げに言う。
娘が思春期を迎え、「お父さんの後に入るのは嫌」娘あるあるを発動した。それから一番風呂は次女、二番風呂は長女、三番風呂は夫、最後に私の順番になった。
大学進学と同時に娘たちが家を出ると、一番風呂の権利を奪還した夫だが、娘が帰省するたびにその権利は剥奪される。
だが今日は一番風呂の権利を行使できるらしい。
「じゃあお言葉に甘えて入らせてもらおうかな」
「いいよ〜」
「どうぞ〜」
娘たちはパタパタとリビングへ戻って行った。
私が料理の盛り付けに取りかかると、娘たちは食器を並べたり、料理を運んだり率先して動いてくれる。
私たち夫婦にとって娘たちは大切な宝物だ。
分け隔てなく育ててきたから、姉妹の確執もなく仲が良い。特に次女は、お姉ちゃんが大好きだ。
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