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「お母さん!」
「目を開けてよ!」
緊急搬送された病院の処置室で、涙に濡れた娘たちが妻に縋り付いている。
今日は長年勤めた会社を定年退職し、私のお疲れさん会を妻と娘二人が催してくれていた。
幸せな時間を過ごしていたが、突然妻が倒れた。
急いで救急車を呼んだ。
だが、搬送された病院でたった今息を引き取った。
結婚して三十年、私は妻に支えられて生きて来た。妻はそれまで築いてきたキャリアを捨て、私たち家族のために尽くしてくれた。
これから妻に恩返しをしなければと思っていたのに、彼女は私をおいて旅立ってしまった。
私は妻の頬に触れ、精一杯の感謝を伝えた。
「出会ってくれてありがとう。君は幸せだった? 俺はとても幸せだったよ」
私は泣いた。涙が枯れるまで泣き続けた。
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