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桜の花びらが優しく舞っている。
火葬を終え、小さな骨壷の中で眠る妻を抱きしめ、自宅に連れて帰って来た。
「ただいま」
「おかえりなさい」そう笑顔で迎えてくれる妻はもういない。
寂しさで胸が張り裂けそうだった。
容赦なく妻のいない日々は過ぎていく。
そして初盆を迎えた。
玄関先で迎え火を焚く。
今日は妻が帰ってくる日だ。私と娘たちは朝から部屋の掃除をし、庭の手入れをした。
妻の好きなチーズケーキも用意し、迎える準備はできている。
「いつでも帰っておいで」
私たちは迎え火を見ながら妻の帰りを待っていた。
すると、ふわりと柔らかい風が私たちを包んだ。
「お母さん?」
次女が言う。
「お母さんだね」
長女が言う。
「おかえり」
私が言う。
縁側の風鈴が「チリンチリン」と優しく揺れた。
「ただいま」
妻の声が聞こえた気がした。
完
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