家族

5/5
前へ
/5ページ
次へ
桜の花びらが優しく舞っている。 火葬を終え、小さな骨壷の中で眠る妻を抱きしめ、自宅に連れて帰って来た。 「ただいま」 「おかえりなさい」そう笑顔で迎えてくれる妻はもういない。 寂しさで胸が張り裂けそうだった。 容赦なく妻のいない日々は過ぎていく。 そして初盆を迎えた。 玄関先で迎え火を焚く。 今日は妻が帰ってくる日だ。私と娘たちは朝から部屋の掃除をし、庭の手入れをした。 妻の好きなチーズケーキも用意し、迎える準備はできている。 「いつでも帰っておいで」 私たちは迎え火を見ながら妻の帰りを待っていた。 すると、ふわりと柔らかい風が私たちを包んだ。 「お母さん?」 次女が言う。 「お母さんだね」 長女が言う。 「おかえり」 私が言う。 縁側の風鈴が「チリンチリン」と優しく揺れた。 「ただいま」 妻の声が聞こえた気がした。                  完
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加