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いつも通りただいまと言って三和土に靴を脱いでいた。
そこにいつも通り黒い猫が廊下を歩いてやってきた。
しかし、いつも通りに機嫌は良くない雰囲気で、どうにも拗ねた様子だ。
「どうしたんだよ?」
黒い猫はいつもより少し離れた場所でこっちを見て、それで目をそらしたりする。
何か僕が悪いことしたか?御飯の準備忘れたとか、水が奇麗じゃなかったとか?いや、そんなことはない筈だ。
「なんだよ~、拗ねてんのか?」
僕が家に上がり、荷物をわきに置いて抱きかかえると、それは嫌がらずにただ、聞いてなかったし、みたいな風情で僕から顔をそむけた。
「どうしたんだよ?時間通りに帰ってきたじゃないか。何かあったのか?」
黒い猫はまたフンと違う方向に首を向ける。
僕が鼻に鼻をくっつけようとすると、また違う方を向く。
僕は何で不機嫌なのか判らないので、少しため息をつきそうな気分で廊下の向こうに顔を向けた。
と、そこにミサキの顔があった。
僕は呻きそうになった。
僕に黒い猫を押し付けて以来、一週間と言った約束も守らず、数カ月日本に帰ってこなかったアホミサキが、台所の出入り口から顔だけのぞかせて、ニヤニヤとこちらを見ている。
僕は絶句した。
確かに、生きている親族は数少ないので家が一番近いミサキとは、緊急事態が起きた時の為にお互いの家の鍵は交換している。
だから、ヤツが僕の留守にこの家に上がり込むことは可能なのだ。
動物を預かることを強く拒んでいた僕を、あざ笑うようなニヤニヤ笑いだけが、この古ぼけた家の中で生気に満ち溢れていた。
ボケミサキはそのニヤニヤのまま器用に言った。
「ただいまぁ~」
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