席を外す男

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席を外す男

西園寺美咲(さいおんじみさき)は机でカタカタとパソコンのキーボードを叩いていた。文書を入力する訳でもなく、カタカタと空打ち…。西園寺は単に暇なのである。すると、プルルルっと電話が鳴り、ガチャとワンコールで受話器を取る。 「絵鰤寿田(えぶりすた)商事です!」 「東京南南東支店の鈴木です。山田さんはいますか?」 「ただいま、席を外しております」 「そうですか。時間がかかるなら、またかけ直そうかな」 「たぶん30分くらいはかかると思います」 「じゃあ、そのくらいにかけ直すよ」 「承知しました」 ガチャ。 パタパタパタ。話のネタができた西園寺は小走りで会議室に向かう。 「南南東支店の鈴木さんから電話がありましたよ。何の用事ですかね」 「何だろうね?」 会議室では眼鏡の中年男性が席をいじっていた。 「席は外れそうですか?」 「難しいな。床にしっかりと固定してあって外れない。なんで大学の講義室みたいな固定式の席にしたんだろう?」 「ここって元は小規模の塾だったんです。その講義室として使っていたからですね」 「そうなの?」 「会議室にはちょうど良いからって、机と席をそのままにして使っているんですよ」 「レイアウト変更を考えると、座席跳ね上げ式の椅子は困るなあ。この場所を空けないと他に大人数が入れて事務所として使える部屋はないし…」 「鈴木さんのところの南南東支店とうちの東南東支店を統合して南東支店にするなら、新しい場所に引っ越したほうが良いんじゃないですか。ほら、ちょうど中間の場所とかに」 「事務所を引っ越しするお金がないんだよ」 「それは無駄に支店を増やしすぎたからですね」 「それも景気が良くない理由のひとつだ」  
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