女主人は大剣の檻のなか

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「いい気分だ。あなたを権力で縛るのは」  メーヴの身体の上でガラハッドが笑んだ。  よく鍛えられた軍人の肉体は硬く、夜闇の中にあっても暗い影がその隆起を描いている。 「あ…!」  腹の奥に、猛り狂った男の肉体が熱を刻んでゆく。乳房を啄まれ、無様に膨れ上がった陰核を撫でられているうちに耐えられないほどの快楽が身体中を奔り、メーヴの意識を侵した。  ガラハッドが腰を打ち付けるたびに繋がった場所からふたりの熱が溢れ、臀部を伝って寝台に落ちた。 「あなたはどんな気分だ?かつて捨てた騎士に夫を殺され、犯され、悦楽に狂わされて」  メーヴは息も絶え絶えになりながらガラハッドの顔を見上げた。  夕闇のように暗い髪の奥で、鉄色の瞳が鈍く光っている。全く知らない男になってしまったと思ったが、この目は違う。 「ガラハッド…」  あの日、焼け野原で拾った少年の目が、そこにあった。  十八年前の秋のことだった。  隣国との戦争で焼かれた村の後始末を命じられて、十六歳の王女メーヴは数十騎の兵を伴い、寂しい山村にやってきた。  辺り一帯の家屋は焼け落ち、村で唯一の神殿も打ち壊されて、そこら中に老若男女の死体が転がっていた。中には敵兵の死体も混じっている。死臭と肉の焼ける悪臭が充満し、カラスや野犬がたかって屍肉を漁る有様だった。生き残っているものは、誰もいない。  疫病や獣害を防ぐ目的もあり、この村の人々を早々に弔う必要があった。  神殿の裏庭だったらしき場所に夥しい数の薪で祭壇をつくり、犠牲者の死体を並べ始めた時、生き残りらしい少年が半狂乱で兵に飛びかかって両親と兄弟の死体を取り返そうとした。  少年は血と土にまみれ、痩せ細って、打ちひしがれていた。  これが、ガラハッドとの出逢いだった。 「お前は運命に生かされたのです」  メーヴは言った。 「家族との別れはつらいでしょうが、わたくしがお前の家族になります。一緒にいらっしゃい」  ガラハッドは泣きじゃくりながらメーヴの手を取った。  メーヴの王宮における立場は、よくなかった。  王の七番目の愛人が生んだ娘で、王位継承権はなく、ただ外交の道具として嫁がされるのを待つ身だった。十三歳の時に一度外国の王子と婚姻を結んだが、メーヴが夫の元へ旅立つ前に、夫は内乱に巻き込まれ、毒殺された。このことがあってから、メーヴ王女は悪縁を呼ぶという噂が流れ、忌避されていた。  ただ一人、メーヴの騎士となり誰よりも忠実な存在となったガラハッドだけが、メーヴのそばにいた。 「あなたのことを悪く言うやつは全員首を刎ねてやりたい」  メーヴは大きな陶の浴槽の中で侍女に髪を洗わせながら、戸口に立つガラハッドに視線を向けた。  焼け野原で泣いていたあの八歳の少年は、六年経った今では若年ながらも立派な騎士だ。背も伸び、夕闇のような髪と少年らしい丸みを残した頬は、宮殿の女たちから不埒な視線を浴びている。  メーヴはころころと笑った。 「そんな小さな報復のために事を起こしては、お前が勿体ないよ」 「小さな報復などではありません。あなたはわたしの唯一の光だ。あなたのためなら国も奪います」 「ガラハッド」  静かに叱りつけるような声で言い、メーヴは立ち上がった。侍女が布で裸身を覆い隠す間もなく浴槽から出ると、床に湯を滴らせながら戸口へ近付き、たじろいで顔を背けようとしたガラハッドの顎を掴んだ。 「わたくしは身の程知らずは嫌い。口を慎みなさい」 「は…」  この時、小さく声を絞り出したガラハッドの脚の間を見て、メーヴは暗い悦びを覚えた。  誰ひとり味方ではない王宮で、自分に身も心も忠実な臣下はこの拾い子だけだ。この騎士をこそ、自分の強力な手札にして見せる。  メーヴには、そういう野望があった。  メーヴはガラハッドを軍に入れて将として鍛えさせ、王女の名の下にガラハッドをいくつもの戦場へ派遣した。ガラハッドもまたメーヴの期待を裏切らず、必ず敵将の首を掲げて戻ってきた。  大剣を軽々と振るい敵陣を駆けて返り血を浴びる凄まじい姿に、敵はおろか味方さえ恐れ慄いた。いつしかガラハッドは、「黒塵(シューハディー)」という通り名で知られるようになっていた。彼の通った道には、乾いた血が黒い粉塵のように舞うからだ。  ガラハッドの騎士としての名声が高まるたびに、メーヴの名もまた上がっていった。  かつて悪縁を呼ぶ王女と忌み嫌われていた女は、最強の騎士の主君として認識され、聡明さを謳われるようになり、政治の世界でも重用されるようになった。 「褒美は何がいい?ガラハッド」  これまで自分の毒殺を試みてきた王妃の寵臣を反逆罪で処刑したメーヴは、上機嫌で葡萄酒を味わった。  ガラハッドは王妃の寵臣の血で汚れた大剣を丹念に磨き終え、メーヴの足下にひれ伏した。 「あなたが与えてくださるもので、もっとも尊いものを」  メーヴは思案して、昨年成人したばかりの騎士の目を見つめ返した。 「それではわからない。もっと具体的に言いなさい」 「わかりませんか」  ガラハッドは甲冑を着たまま、メーヴの前に進み出た。  メーヴは精悍な男の顔をしたガラハッドに、不覚にもたじろいだ。よく知った青年の中に、知らない男がいる。 「頭が高い」  メーヴができる限りの威厳を持って声を上げると、壁のように立ちはだかっていたガラハッドは膝を折り、主君の亜麻色の髪を愛おしそうに掬い上げて、その先に口付けをした。 「…来なさい」  この夜、ガラハッドに触れることを許したのは、人々が畏れ敬服する「黒塵(シューハディー)」の手綱を握っておくためだった。  ガラハッドは自らが神のように尊ぶ主人がドレスを脱いでやおら白い肌を晒すと、途端に気弱な少年のように震え、恐る恐る乳房に触れた。  メーヴはくすぐったさに耐え、はち切れそうになった騎士の脚の間に服の上から触れた。 「わたくしと寝たいの?ガラハッド」 「……!」  ガラハッドは突然身体を離し、跪いた。 「滅相もない。畏れ多いことです」 「いい子。では葡萄をあげましょう」  メーヴは銀の盆にのった葡萄を一粒摘まみ、唇に挟んで、ガラハッドの顎に指を添えて上を向かせた。  ガラハッドは(かつ)えたように息を荒くし、舌を伸ばして、メーヴの唇を自分の口で覆った。  腹の奥からどろりとした興奮が沸き、メーヴは名残惜しげに離れていく男の唇を葡萄の汁が濡らすさまを、恍惚と眺めた。  ガラハッドはメーヴの褒美を求め、ますます軍功を重ねるようになった。  事態が急変したのは、王の死だった。  暗殺である。  戦地にあったガラハッドが王都へ戻った時には、メーヴは王を弑した宰相の妻になっていた。  初夜の立会人には、ガラハッドが選ばれた。  十も年上の男に手酷く犯される声を、寝台を包む薄布の外でガラハッドに聞かれていると思うと、ひどく胸が軋んだ。はやくこの地獄から解き放ってほしくて、ひどい痛みに耐え、どんなに屈辱的な体勢をさせられても無言で受け入れた。  それなのに、薄布の向こうからガラハッドの視線を感じた瞬間、どうでもいい男に汚されているはずの身体の奥が熱く疼いて、メーヴを恍惚へ導いた。男が放ったものが身体の奥に満ち、初夜の床は血で汚れた。メーヴの胸に残ったのは、虚無にも似た小さな罪だった。  その後メーヴはガラハッドを自分の騎士から解任し、ガラハッドが行方をくらましても追うことさえしなかった。    ガラハッドが再びメーヴの前に現れたのは、五年後のことだった。  騎士ではなく、王国を略奪しに来た傭兵団の長として。―― 「お前、ガラハッド……?」  避難していた離宮で略奪者と対峙したメーヴは目を疑った。  無理もなかった。肉体は更に鍛えあげられ、双眸は殺人者のように鋭く昏くなり、髪も髭も伸びて、メーヴの記憶にある忠実な騎士の姿とは違っていた。 「どうして――」 「あなたの夫は死んだ」  ガラハッドは言うなり、手に持っていたものを放り投げた。メーヴの足下に転がってきたそれは、何度犯されても終ぞ子も成さず、情も湧くことのなかった夫の首だった。その死を知ってなお、不思議なほど何も感じなかった。 「今からわたしが王だ。もう身の程知らずとは言わせない」  メーヴは自らの身に降りかかることを受け入れた。宰相が父を殺して王となり、自分を犯して妻としたときと同じだ。違うことと言えば、シューハディーと呼ばれるこの男のことを、メーヴはかつてよく知っていたということだ。  メーヴは、国王夫妻の寝台でかつての騎士に肌を暴かれ、激しい愛撫を受けた。身に付けたままの鉄が肌に触れて神経を過敏にし、太い指で乳房の中心を撫でられると、今まで感じたことのない痺れが肌の上に生まれて腹へ降りていく。 「逃げを打とうなど思わぬことだ」 「わたくしは身の程を知っているよ。ガラハッド」  ガラハッドが暗い微笑を浮かべて甲冑をガチャガチャと脱ぎ捨てていくのを、逃げることもなくじっと見つめた。硬い筋肉で覆われた身体にはいくつもの傷跡が線を描き、肉がえぐれたのが治った形跡もある。まるで知らない身体だ。  汗と砂塵とガラハッドの肉体のにおいを感じた瞬間、不意に胸が苦しくなった。生まれて初めて、全身に血が巡ったような感じがした。  ガラハッドの獣のような視線が目を捉え、まるで獲物を狩るような勢いでその肉体が身体の上に飛びかかってきた。  乳房を掴まれ、舌が中心に這う。そこを吸われながら秘所に指で触れられると、メーヴの肉体は無数の火花が散ったように熱くなった。夫に触れられても乾ききって痛みを生むばかりだった場所は自分の身体ではないと思うほどに濡れ、ひりひりと過敏になった。 「今まで誰もあなたにしなかったことをしてやる」  メーヴは両腕を上げて顔を隠した。どんなに醜い顔をしているか分かったものではない。ガラハッドの匂いが身体の内側を引き絞るように痛めつける。こんなことは、初めてだ。  弑逆の王となったはずのガラハッドがメーヴに跪き、白い脚を開いて、その中心に吸い付いた。 「ああっ…!」  唇が秘所を覆い、舌がいとも簡単に中へ入ってくる。メーヴは気が狂いそうになるほどに悶え、与えられる快楽に声を上げた。娼婦のような嬌声を上げたことなど一度もない。頑なに守ってきた矜持だった。それを、いとも簡単にかつて騎士だった男は破ってしまう。  身体の奥に太い指が入ってくると、目の前に火花が散るような快感が奔り、初夜のあの瞬間以来一度も迎えたことのなかった絶頂がメーヴの頭に襲ってきた。  ガラハッドが寝台の前で裸身になり暗雲のように身体の上に覆い被さってきたとき、メーヴは自分の鼓動を聞いた。心臓が破れてしまいそうな、痛いほどの脈動が肌を打つ。どういうわけか、すっかり冷たい目をするようになってしまったガラハッドの鼓動も同じように聞こえる気がした。 「この瞬間をどれほど夢想したか、あなたは知らないだろう」  メーヴはふるふると首を振った。 「思い知るがいい」  ガラハッドが酷薄な笑みを浮かべながら熱く張り詰めた長大なものをメーヴの中心に触れ合わせ、神殿を打ち壊すほどの勢いで、奥まで入った。 「ああ――!」  今まで知っていた男などとは比べものにならない。身体の中でものすごい圧力が生まれ、噛み合う肉体が互いを溶かし合っているようだ。 「ふ……きつい」  掠れたガラハッドの声が、メーヴの鳩尾をザワザワと落ち着かなくさせた。 「…っ、締めるな」 「でも…あっ」  ゆるゆるとガラハッドの腰が動き、次第に動きが大きくなっていく。容易に深い場所まで到達し、メーヴに堪え難い快楽を与えた。 「いい気分だ。あなたを権力で縛るのは」  嘲笑するような声だ。それなのに、メーヴの心は弾んだ。 「あなたはどんな気分だ?かつて捨てた騎士に夫を殺され、犯され、悦楽に狂わされて」 「ガラハッド…」  メーヴは自分を犯す男の頬に手を伸ばし、唇を重ねた。  胸が痛いほどの絶頂の波が来る。激しく打ち付ける嵐のようなガラハッドの行為に、メーヴは全身で歓喜した。 「ガラハッド――!お前が恋しかった…ずっとお前が欲しかった」 「嘘を吐くな!あなたはわたしを捨てた!」  脚を担ぎ上げられ、もっと奥深くへとガラハッドが入ってくる。身体の中を抉られるような衝撃に、メーヴは悲鳴を上げた。  ガラハッドはメーヴの身体から出ていくと、腰を掴んで寝台に俯せにその身体を転がし、背後から激しく貫いた。 「やっ…ああ!」 「わたしを弄び、利用し、挙げ句、他の男に抱かれる姿など見せて…!あなたはわたしを裏切った!…家族になると言ったのに!」  激しすぎる衝撃に耐えきれず、メーヴは何度も昇り詰めた。臀部にガラハッドの肉体がぶつかって寝室に淫らな衝撃音が響く。 「んんッ…!んー!」  今までで一番大きな波を、メーヴは敷布を噛んで迎えた。頭がぼんやりして何も考えられない。  ガラハッドが出て行くと、どろりと自分のものが腿を伝って流れ、敷布を汚した。  ガラハッドは頼りない女の白い背に自分が残した痣のような痕跡を見た。  征服欲が満たされる反面、ひどい罪悪感が迫った。まだこの女主人の飼い犬だった頃の癖が抜けない。もはや動物の習性のようなものだった。  ガラハッドは八歳の時に一度死んだ。  倒壊した神殿の瓦礫に隠されて命は繋がったが、略奪と陵辱の限りを尽くされた村で、家族も友人もみな殺された。八歳の少年にとっては、世界の崩壊であり、自らの死も同然だった。  そして飢えて死を待つだけの抜け殻になっていたとき、太陽の色をしたドレスをまとった少女が神よりも神々しい光を放って現れた。  信仰すべき唯一の神を見つけたと思った。  家族になると言って手を引いてくれた亜麻色の髪と紫色の目をした美しい王女は、抜け殻のガラハッドにもう一度命を吹き込んでくれた。  この主君のためならなんでもやろうと思えた。  例え軍で虐待されても、自分よりも何倍も身体の大きな輩に辱められても、主のためと思えば耐えられた。血を吐くような思いで肉体を鍛え、剣と馬術の腕を磨き、吐きながら人を殺す訓練を繰り返した。一年経つ頃には、相手が血を流そうがどうとも思わなくなっていた。  軍で誰よりも強くなり、かつて自分を虐待した上官に報復しても、それほど良い気分ではなかった。  ガラハッドの心を動かすのはただひとつ――メーヴだったのだ。  それなのに、主であるメーヴはガラハッドの忠誠を完全には信じていなかった。  十八歳の時から時折与えられるようになった「褒美」が、その証拠だった。メーヴは自らの肉体に触れさせることでガラハッドの欲望を操り、自分に縛り付けようとしていた。  望んだものは、ただのささやかな頬への口付けだった。それをもっとも尊い褒美として宝にしようとしていたのに、メーヴはその純粋な気持ちさえ利用した。 (こんなことをしなくても、あなたから離れるはずないのに…)  ガラハッドはメーヴの乳房に触れ、その柔らかな肉体に頬を寄せ、唇から果実を貪り食うたびに、この誘惑に勝てない自分への嫌悪感と心から信頼してくれないメーヴへの失望で気が触れそうになった。  これが深く歪な愛だと気付いたのは、唯一無二の神がただの女にされるのを見た瞬間だった。  かつて神に触れるが如く畏れた尊い主君の裸身がなんでもない男によって乱暴に暴かれ、砂地を掘るようにいとも簡単に汚されていくさまを、ガラハッドは薄布越しに無言で見守るしかできなかった。  この時のメーヴの声は、快楽とはほど遠いものだった。目を見なくても分かる。あの声は、助けを求める叫びだった。そして、薄布の向こうのメーヴがこちらを見た瞬間、メーヴの呻きは法悦を伴って残酷に耳に響いた。  ガラハッドは、メーヴの騎士を解任された。  新たな王となった男の意向ではなく、メーヴの意志だと知ったとき、ガラハッドは王国を離れた。  不思議と失意はなかった。それどころか、怒りと憎しみが身体の中に渦巻き、報復を誓った。メーヴの、裏切りへの報復だ。  メーヴが荒く呼吸を繰り返しながら、ぐったりと仰向けになった。  ガラハッドが今まで見たことのない、鮮やかな紫色がそこにあった。まるで故郷に咲いていたクロッカスのようだった。 「…わたしがお前を遠ざけたのは、気付くのが怖かったから」  メーヴが再びガラハッドの肉体を迎え入れようと、脚を開いた。 「嘘だ。あなたは何も恐れてはいない」  ガラハッドは、メーヴの膝を掴み、乱暴に自分の方へ近付けて、その中に入った。 「……っ!怖かったの。お前をものみたいに扱うことで、大切にしないようにしていた。でも無理だった。今まで以上に大切になってしまったら――愛してしまったら、あの男の妻でいることに耐えられないから。そうなったらわたしは、狂ってしまう」  胸が苦しい。メーヴへの愛が深く鋭く心臓に食い込んで、このまま死んでしまいそうだ。ガラハッドは身体の奥を何度も突かれながら震える腕を伸ばしてくるメーヴを見下ろし、手を握って指先にキスをし、舌を這わせた。 「わたしはもうずっと狂ってる。あなたのために国を奪うと言った時から、こうすることだけを考えてきた。あなたも、もっと狂えばいい」 「あっ…!ガラハッド――!」  ガラハッドはメーヴの唇を貪るように蹂躙し、舌を絡め、女の法悦の叫びに身体を震わせながら、その肉体の中を自分のもので満たした。 「あなたを愛している、メーヴ。あなたはわたしのものだ。永遠に」  そうこぼしたガラハッドの鉄色の目は、夜空の星のように輝いて濡れていた。 「わたしもお前を愛してしまった。次わたしから離れるときは、去る前にわたしを殺して」  ガラハッドの目から落ちた雫がメーヴの目に落ち、もっと大きな水滴となってメーヴの頬を流れ落ちた。  間もなくして王国は新たな侵略を受け、滅亡した。  傭兵の王と最愛の王妃は戦乱の中で死んだとも、落ち延びて共に海を渡ったとも言われている。  遺体もなく二人の足跡を辿ることは困難だが、海の向こうにクロッカスが美しく咲く島が小さな王国として栄えたことは、ここに記しておこう。
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