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先輩たちは…体調はすっかり夢の中で、起きてくる気配なし。姉御は少し移動して望遠鏡をいじって、何やらメモを取ったりしている。マルちゃんと池田君は移動したのか、姿が見えない。…ここが勝負時ではなかろうか。
「コーくんはいままで付き合ったりしてないの?というか、今は好きな人いないの?」
ストレートに聞いてみた。
「あー、そうだねぇ…昔好きな人はいたんだけど、フラれたというか…。告白する前に趣味の話をしてたら、すごくキモがられて、それで…。」
次の言葉を飲みこむみたいに、コーヒーをグイっと飲んだ。
「あー、それはご愁傷さま?」
「どうもです。」
「ちなみに、その趣味ってどんなの?」
「言いたくないでーす。」
「大丈夫だよ、キモいとか絶対言わないし。」
コーくんは目を閉じ、しばらく考え込んでから話してくれた。
「…月の、話を集めてるんだよ。神話や民話に、科学的な話に、陰謀論。童話も、かな。いろんなものを集めて、自分なりの解釈をまとめて書き留めたりしてるんだ。時代も地域もまったく違う生まれの話に、共通点があったり、逆に同じ時代の話なのにまったく違う解釈が生まれていたり。そういうのを見つけるのが昔から好きで……暗いでしょ?」
コーくんはまたコーヒーをグイっと飲もうとしたけど、さっきので空になってたみたい。バツが悪そうに缶を見て、「コーヒーを取ってくる」と言ってスタスタとテントの方へ向かった。
「素敵だと思うけどねぇ…」
私は彼の背中を眺めながらポツリとつぶやいた。これを聞いて、キモいとか思う人とは、感性が合わないな。変、というよりかわいいと思ううんだけどなぁ。
コーくんが戻ってくるまで、私は空に輝く星々を眺めた。その中で、特に輝く一つを指さして、ツーっとほかの星たちと線でつないでいく。
「…これは、カツオかな?」
「…カツオ?」
コーくんが戻ってきた。手にはコーヒーが二つ。一つを私に差し出してくれたので、「ありがとう」と受け取った。温かい。
「私はね、昔から夜空を眺めるのが好きで、星と星をつないで絵をかいて遊んでたの。私の趣味かな。…あれは鮭、かな。」
私はどれとどれがカツオと鮭かを指さして教えた。
「…どう違うか、全然わかんない。」
「えー、違うよ。体の長さとか、あと顔もひれの形も。ま、言ってもほかの人にはわかんないかもね。…でもね、わかる人だけわかればいいと思うの。自分が楽しめるのが一番だもん。コーくんの趣味と一緒だよ。」
「一緒なのかなぁ。」
「コーくんが暗いやつなら、私も十分暗いやつだよ。」
「海さんは、暗くないでしょ。」
「そう?昔、この趣味を披露したら変なヤツ認定されたよ。まぁ、誰かと夜空を眺める機会なんてそんなになかったから、披露することもあんまりなかったけど。どう?変でしょ?」
「変じゃないよ。」
「ありがと。でもこれで、私もコーくんも夜空の趣味でつながったね。」
「それは…うれしいね。」
「うれしいねぇ。」
私は自分から言っておいて、照れてしまった。彼の顔が見れなくて、もらったコーヒーを飲んで、星を眺めた。…あれはエビだな、手長エビ。
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