0人が本棚に入れています
本棚に追加
夕暮れにはまだ早く、でもお昼はとっくに過ぎた頃、大型のレンタカーで山を登っていく。木々の隙間からは青い空が見え隠れしていて、今日は1日快晴。天体観測にはぴったりの日になった。
山自体の標高はそんなに高くないけど、キャンプサイトが併設されていて、星空がキレイだと評判の場所だった。男女6人、何かを期待していないと言えば嘘になるけど、私は純粋に楽しみにしていた。星を眺めるのは昔から大好きだ。
夜ごはんはベタにカレー!…なんて思ったけど、現実はお酒のつまみになるようなコンビニ総菜とお菓子類だった。高校生じゃあるまいし、大学生ならこれが現実かな。
6人のうち、先輩の2人はもはや夫婦のようで、酒好きの隊長は日が沈む前にとっくにテントの中で酔い沈んでいた。その隊長を横で介抱しながら姉御さんが望遠鏡やらカメラやらをいじっていた。姉御さんは何でも凝り性なのだ。
同級のマルちゃんと私、あとはイケイケの池田君といつも眠そうにしているコーくんの4人で、片付けをしながら各々が星を見るために準備をしている。2つあるテントは最終的に男女別に使うことになるけど、1つは先輩たち(主に隊長)が使っているので、それぞれが飲み物や食べ物を手に星を見やすい位置に移動した。なんとなく、男女ペアになるように。なんとなく、ね。
マルちゃんと池田君は、いい感じ。どちらからも相談を受けていた私は知っているけど、池田君いわく今日キメるらしい。マルちゃんの方は「良い告白じゃないとOK出さない」って常々言ってたから、いつもみたいに池田君が空回りしなければ良いのだけど。…がんばれ池田君!
とまあ、人の心配してるよりも自分の心配しろって話なんですけどね。
私は私でコーくんが好きだ。でも、コーくんの方は何考えてるかわかんない。いつも眠そうにして、ぼんやりと考え事しているように見える。
「となりいい?」
そういってコーくんの横にポスンと座る。焚火を消したせいで、少し夜風が寒く感じる。
「はいはい、どうぞどうぞ。」
そういってコーくんはちらりとこちらを見て、私と間を少し開けるように座りなおした。…私は少し意地になって詰めなおして座る。するとコーくんもまた少し間をとるために座りなおした。もう一度、と思ったけど代わりにコーくんの顔を覗き込んだ。コーくんは手にしている缶コーヒーをグイっと飲んだ。…照れたのかな。だといいのだけど。
「コーくんは星好きなの?」
「んー、ぼちぼち。どちらかと言えば月の方が好きかな。日によって見え方が違うし、ね。」
「んー?月は見え方変わらないんじゃなかった?星は季節で見えるものが変わるけど。」
「あー、うん。そうだね。」
コーくんは少しうつむいて、はははと力なく笑った。
「ごめん、私嫌なこと言っちゃったのかな?」
「ああ違う違う。僕の言葉が足りなかったなと、反省をね。…暗いよね。」
「えーそんなことないよ。」
私はほっとしてコーくんの肩を小突いてみた。彼はまた、はははと笑ったけど、今度は照れてるように見えた。…私の願望かな。
「目で見る見え方というより、雰囲気かな。夏と冬なら空気の張りかたが違うでしょ?そうすると月の雰囲気も違って見えて、それを眺めるのが好きなんだ。」
「で、毎日寝不足なの?」
「まあ、うん。そうなるね。」
コーくんはまたコーヒーを一口飲んで、ぼんやりと空を眺めている。今日は新月。月の明かりが無い分、星がよく見える日。大好きな月がいない空を見て、彼は何を想うのだろう。私は私でコーくんの顔をぼんやりと眺めていた。
「…あ、そういえば池田君がマルちゃんに今日告白するって言ってたけど、うまくいくかな。」
顔を眺めていたことを悟られないように、矢継ぎ早に言った。
「言ってたねー。僕も軽く相談されたけど、経験値ゼロの僕が言えることは『あたって砕けろ』だけだったよ。」
「いやいや砕けちゃだめだよ。」
お互いにふふっと笑った。これはなかなか良い雰囲気なのではなかろうかと、少し舞い上がった。
最初のコメントを投稿しよう!