第四章・蓬莱を求めて

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 もし前の楓が、紫乃さんと恋愛関係になるのを望んでいなかったら?  前の楓がお父さんと思っている相手と恋愛になっちゃうなら、それはものすごくよくない気がする、倫理的に。そのあたりの確認前に返事をするのは、落ち着かない。 「何に引っかかってる?」 「はい、実は……」  私は『記憶を失う前の楓にとって父なら、私が夫にするのは気まずい問題』について説明した。すると紫乃さんも私と同じように、うーむと唸って首をひねってしまった。 「令和(いま)はいろいろ難しいよなあ。古代なら神相手なら親子だろうが兄妹だろうが気にせず夫婦になるのはよくある話だったし、その後の時代なら男女が一緒にいるならそりゃ結婚、みたいなムードだったからなあ。実は悩んだことなくて」 「うーん、時代が新たな悩みを作るとは……」  私はちら、と紫乃さんを見る。 「紫乃さんのほうこそどうしたいんですか?」 「俺? 俺は最初から一貫して、楓を愛しているよ」 「愛してるって、あくまで神様としてですよね? いきなり気軽に恋愛関係になれるんですか」 「なれるよ」 「娘扱いだったんでしょ、私のこと」
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