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10.最後のワルツ◆
ハイドとウィルクスがセント・アイヴスの別荘に辿り着いたとき、日は暮れていた。
真っ暗闇の中、家じゅうの明かりを灯して歩く。最後に二人は寝室に入った。
やっと訪れた、静かな時。ウィルクスは久しぶりに、心も体も安らいでいた。
ジャケットとベストと靴下だけ脱ぎ、二人で主寝室のベッドに入る。
横たわって、ウィルクスはもうすでに眠ってしまいそうだった。だが、それではいけないと、なんとか気力を呼び起こそうとする。
――ハイドさんに、抱いてくださいってお願いしたんだから。眠るわけにはいかない。
そう思うのに、まぶたが下りてしまいそうだ。それに、ハイドの匂い。穏やかで甘い、清潔な香りがして、ウィルクスはハイドの胸に擦り寄った。ハイドの手が、恋人の後頭部を緩く抱いた。
「もう、寝なさい」
優しい声に、ウィルクスの愛慕は募る。嫌だというように首を横に振って、ウィルクスは薄目を開けた。
狼のように精悍な顔が、あたたかく笑っている。ハイドはウィルクスのまぶたに、そっとキスを落とした。
「寝なさい、ウィルクス君」
ウィルクスはもごもご言って、シャツを着たハイドの胸元を掴んだ。
「い、嫌です。抱いて、ほしいから」
頑張ろう、と思うと少しだけ眠気が吹き飛んで、ウィルクスはハイドの唇にキスした。
ハイドは黙って受け入れてくれる。ウィルクスが舌を絡めると、ハイドも応えた。
キスはそれほど深くならなかった。ウィルクスが息苦しくなって唇を離すと、ハイドは黙って恋人の顎に垂れた唾液を拭う。
二人は見つめ合い、ウィルクスがハイドに覆いかぶさった。ハイドの手首を掴んでシーツに縫い留めると、ウィルクスは恋人の唇に吸いつく。ハイドが口を開け、再びウィルクスの舌を受け入れた。
二人はカーテンを閉め切った午後六時半の寝室で、溶けあうように体を重ねた。
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