4.急襲◆

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4.急襲◆

 翌日の十月十日、ウィルクスは午前十一時過ぎに主寝室のベッドの中で目覚めた。  目を開けた瞬間、眠るハイドの顔が間近にあって、ウィルクスは一瞬ここがどこだかわからなくなった。だが、すぐに思い出す。  ――ハイドさんは昨日の朝、訪ねてきてくれたんだ。それで、いっしょにお茶を飲んで。ウェブリー・リボルバーを見つけて、でもなにも心配いらないとあの人が言って。夕飯をいっしょに食べて、ミセス・グリーンには、電話でしばらく来なくていいと伝えた。だから、彼女は来ない。当分。それから、ゆうべはいっしょに眠った。  ウィルクスはゆっくり上体を起こすと、床に落ちてしまったガウンを手探りで拾った。ハイドが誕生日にくれた、あの灰色のガウンだ。素肌の上から羽織って、前を緩く留め、ベッドから降りる。  素足にスリッパをつっかけて窓際まで行き、ちらりとカーテンの隙間から外を見た。  外は眩しい光に充ちている。秋になり枯れた色に変わり始めた、広い庭がわずかに見えた。  お裾分けとでも言うように、光は寝室にも射し込んでくる。緑の濃淡で森を描いた壁紙が、きらきらと光る。清潔な寝具で覆われたアイアンのベッドを照らし出し、眠るハイドの、裸の胸の下あたりに陽だまりを作った。  朝の光は他にも照らし出した。例えば深緑のカウチや白く塗られたチェスト、銀の燭台、壁に飾られた、海をモチーフにした小さなこまごまとした絵、ハイドが描いたビッグ・ベンの素描。部屋の隅には洗面台があり、奥には扉があって、手洗いとバスルームへと続いている。  ウィルクスはきちんとカーテンを閉め直すと、まず洗面台で手と顔を洗い、口をゆすいだ。昨日の夜、タオルハンガーに掛けておいた洗い立てのタオルで手と顔を拭き、しっかり目覚めようと両頬を叩く。  鏡に映ったウィルクスは、疲れた、少し寂しげな表情をしていた。  そのまま、彼はバスルームに向かった。昨夜の名残りを落とすために。
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