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一、時が流れ、その日になった。
*
はるか未来での再会を誓ったのは、ちょうど三十年前のこと。
たしかに、茉莉はこう言ったのだ。
お互いが憶えていたら、同じ日、同じ時間に待ち合わせして、五十才のデートを楽しみましょう、と。
光也は、ずっと憶えていた。
そして、時が流れ、その日になった。
初夏、六月三日、火曜日。
曇り空の上野公園、午前十一時。
灰色のクルーカット、黒いポロシャツ、カーキパンツ、スニーカー姿の冴木光也は、国立西洋美術館の庭に立ち、オーギュスト・ロダン作『地獄の門』を見上げながら、美大時代のはじめての恋人、平山茉莉を待っていた。
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