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ヘイデンの決意
キングスフォートの近郊に、ビショップ卿の砦があった。
「これはこれは!カリバーンの正統な後継者!クリストフ卿のお越しであるな?」
腹に一物二物隠していそうなエルフが、ヘイデンにペコペコしていた。
「ルークウッドの、臭い森の住み心地は?」
ユーラが、えらいムカッときていたのが、パープルアイで見て取れた。
「ビショップ卿にお聞きしたい義がござるが、よろしいか?」
内蔵助モードで、ヘイデンは言った。
ああ、既にもう、ビショップの腹は見えていた。
ルークウッドの砦から、ユーラを連れて出てきたのだ。どっちに付くかという話だった。
しかも、わざわざユーラを招いていても、まるで存在しないかの様に、昏い森をディスっている。
以上のことから、ヘイデンはビショップの馬鹿を、くだらないレイシストと認定、全てを聞き流すと決めていた。
「まず、ルークウッド卿とは、和議を結ばぬのか?」
「あんな、懐古主義のディガーズ崩れなど」
ディガーズ。確か、イギリスの歴史を学ぶと出てくる、穴掘り人のことだった気がしていた。
ピューリタニズムでも、極左派だったような。
「既に、この世界にも、多少の文明の利器はございますしな?ほれ、私の携帯には、新たな時代を築かん、我々に対して、大量の「いいね」をいただいておりますし。森は、鉄器によって、拓かれるべきです」
遂に、キレたユーラが、剣のヒルトに手を伸ばそうとし、その手を、ヘイデンが優しく押さえていた。
気持ちは解るが、今は忘れよ。早百合。
その気持ちは通じたとは思えなかったが、ユーラが、力を抜いたのが解った。
「ビショップ卿に申し上げる。儂は、いきなりフェアリーランドに来ることになった。今まで、世に妖精などがいるなど、思いも寄らなかった、ニューヨークの一市民にすぎぬ。それで、まず、お話を聞かんと思ったのだ」
うんうん。ビショップ卿が頷いていた。
今この瞬間、使者であるヘイデンを、伐つとは到底思えなかった。
今なら、もう少し、突っ込んだことも聞けた。
「確かに、この国は、お館様が差配する、要するに尾張であろう。そこもとが欲するのものも解っておる。カリバーンであろう?儂は必要とは思えぬが」
ここで、俺もカリバーンが欲しい。などと言ったら、砦を出た瞬間、ユーラと共に殺されるだろう。
ビショップ卿は、無言で応えていた。
「次にのう?儂は、この国に住まう、民を見てきたのだ。恐らく、キングスフォートに住む多くの民は、お館様のことなど、見たこともあるまい」
多分、フォーン達だって、カリバーン見てなきゃ、信じなかっただろうし。
「そう――ですな?そうでしょう」
「なれば、何故、お館様に弓を引くのじゃ?そこに、どのような義がある?」
「お館様――と仰るのは、妖精王陛下のことですかな?ならば、クリストフ卿はご存じあるまい。王陛下の圧政と、殺戮を」
「――民を、お館様が?」
「ええ。最早、王の御代は終わりでございましょう。多くの妖精達を守る為、我等は仕方なく、陛下に弓を引くのです」
「確かに、儂は、この砦に積み込まれる荷駄を見てきた。鉄器の山であったな?で、あるか。ならば、ことここに至って、お館様に付く妖精の、ありやなしや?」
「もう、1人もおりますまい。カリバーンは、貴方に輝きましょう」
よく、生きて帰ってこられたものだ。ユーラは、ホッとしていた。
「長い長い間、ダークエルフと、シティーエルフは、敵対を続けてきたのだ。私の先祖は、シティーエルフに、魔女の一党として、生きたまま焼かれて死んだ。恐らく、私が最初で最後だろう。ビショップ卿と対面して、生きて帰れたダークエルフは」
「うーん。納得いかないなあ」
ヘイデンの内面を少し慮ると、ダークエルフも、シティーエルフも、酷く美しいお尻してるよなあ。で済んでしまう話だった。
「ねえ?エルフって、妖精、なんだよな?」
「そうだ。だが、それはえらく漠然とした呼び方にすぎない。人間だって、白人とか、黒人がいるだろう。それと同じだ」
いや、ラテン系とアジア系もいるよ?今は。
「それと――四大精霊っていうのは?」
「精霊は。更に魂が深く自然と同化した、スピリットな存在だ。ほとんど神に近い。妖精王以上に、民はその存在を、信じていないのが現状だ」
ライル。放っときすぎだよ。流石に。
「うん?おう、何としたことじゃ。怪我はないか?童よ?」
ぶつかった、子供妖精を、怯えて母親が、抱いて逃げていった。
「これが、今のキングスフォートの現状だ。妖精王の存在は見えないが、下手に逆らうと、民は妖精王に処刑される。ということになっている」
「あああ。ビショップ卿だね?存在しないお館様の威を騙って、邪魔な妖精を、始末しているんだな?」
「ああ。あの忌々しいシティーエルフ共め。出来れば、真っ先に斬って捨ててしまいたかったのに」
臍を噛んで、ユーラは言った。
「まあ、大体内情が見えたよ。ビショップもルークウッドも、ものの本質を、まるで理解しておらん。奴等の腹も読める。カリバーンは、持つ意味がない。持ち手を、保有すればよいのであろう。儂のような、頭の悪い人間が、カリバーンを持つ。それだけでよいのだ奴等は。故に、お館様はそもそも奴等の諍いに、何ら心を寄せぬのだ。儂が如き人間を、このように平然と尾張を闊歩させるが如き大御心。エルフ共には、うつけとしか見えぬのだろう。つまり、エルフなんぞにくっ付いて、殺し合う妖精など、知ったことではないのだ。それが、お館様のお心じゃ。荒れるなら、好きに荒れるがよいと仰せだ」
「ふざけるな!エルフは確かにそれでもいい!だが、巻き込まれるのは、さっきの子供ような、力なき民だろう?!」
「うん。それも本当だ。ライルが見せたかった、妖精社会の現実って奴だよ。あいつは、粗野でチンピラみたいな奴だが、それでも、真の妖精王なんだろう。ルークウッドもビショップも、リチャード王のいない間に、好き勝手するノッティンガム総督だ。うん。見えたよ。お館様の、ライルの大御心が。儂が、俺が見えるフェアリーランドは、ああいう子供が、いない社会なんだと思うよ?ならば、如何にするか、お前にも解ろう?」
ユーラが、ここにいる理由。
ヘイデン・クリストファーが、操りやすい傀儡であればよし。もし、エルフに背くなら。
「儂は、ルークウッドとビショップを倒し、真の平和を、美しきフェアリーランドを、お館様に捧げる。それ以外にないのだ。儂は、俺は、織田の黒母衣だからだ。お館様に見せてやろう。儂等の――国盗りを」
「――ヘイデン。残念だ」
ユーラは、やおら抜剣しようとした。
「ご免」
「!」
まるで、ドアのノブを捻る様に、ヘイデンは、ユーラの右手を、ヒルトごと掴み、抜剣を防いでいた。
「パープルアイが、既に主を捉えておったのだ。呼吸するかの如く、霊気は脈動する。手に取るように解った。あとは、時合だけだった」
「く!」
「それにしても、真に美しい娘じゃ。まるで、儂の天下が主じゃ。美しいな?早百合」
「な、何を?!う?!」
いきなり、口を塞がれた。
「済まぬ。こうするよりないのじゃ。早百合」
「ひゃああああああ?!」
耳を、パクってされていた。
耳の先っちょを、舌で転がした。
「こ、この卑怯者♡尋常に――立ち合わんか♡」
「丸腰の、儂相手に剣を抜くからじゃ。あー♡エルフのパティの伸び具合は、如何で?クリちゃんコリッコリ♡」
「んふう♡ああ♡嫌あああああ♡」
ガクンと、腰を抜かした。
「シモーネ、いる?」
不意に、どこかに声をかけた。
「いるわよ?このエロ奉行☆」
「うむ。儂は、これから一晩かけて早百合を説得する。越中――いや、フォーン村で待て。下知を下す故」
「かしこまりましたー☆御奉行様♡」
シモーネは、一瞬で姿を消した。
やはり、草はピクシー以外にやれる者はおるまい。
それだけではない。フォーン村の民に、答えはあった。
あの、強靱な足腰、跳躍力。
更に、奴等の笛は、遠隔な地ですら、即座に連絡たらしめん。
行ける!彼等に、武を教えることが出来れば!
恐らく、誰であっても見えてはいまい。
最も武に遠い、フォーンによる国盗り。
ああそれから、すっかり腰が抜けちゃって、可愛いなあ。ユーラは。
「あ。おばさんの宿屋に、行こう?」
うん!ダディにマミイ!俺は今、大人の階段、登ってみせます!
っていうか、親父まだ、変な粉吸って、ヘラヘラしてるのかな?
オクラホマの荒くれカウボーイは、最近人気が出てきた、胡散臭いサーキットライダー染みた牧師に、すっかり傾倒してしまっていた。
ビンセント・エドワードだっけ?俺は、全然信じてないけどさ。
思考が散らばっていても、下半身は、真っ直ぐ、そのポントに向けて足を運んでいた。
鎧の下のパンティーをクリクリしながら、ユーラを抱えて、ヘイデンは宿屋に消えていった。
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