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ヘイデン・クリストファー
ヘイデン・クリストファーという少年を、ギークスと呼ぶ生徒は、多分1人もいなかった。
アメリカの未成年社会において、ジョックス、ブレインズ、ギークス、ゴスという分類は、とても重要なものだった。
要するに、先住民族を駆逐して、国土を得た民の末裔は、シェルターを作って、内に閉じこもるような生き方をするしかなかったからだ。
シェルターを閉めた瞬間、異分子が入っていたことを想像した時の恐怖は、それは大きいものがあった。
アメリカの社会は、異分子を認めず、同じレッテル貼った友達以外を、認めないことで成り立っていると言ってよかった。
アメリカで人狼ゲームやったら、多分夜怖くてトイレ行けなくなるんだろうな。
ジョックスとかが、平然とママ呼びそうで、逆に怖い気もした。
ヘイデンを一言で表すなら、それは飄々であり、また、凡庸な少年だった。
別に、足が速い訳でもなくて、バスケが上手って訳でもないし、野球なんか、からっきしのライパチ君だった。
このヘイデン、ジョックスが、ギークスやゴス、ブレインズに暴力的なちょっかいを出した時、見えないよう、そっと手を貸すということがあった。
それでいて、ジョックスとも対等に会話が出来るという、不可思議としか思えない少年だった。
え?魔上皇?魔神皇の父親だよ。エビルエンペラーの父親?って、すらすら言われて、教室内はポカーンってなったことが一度あった。
ヘイデンは、オクラホマ生まれの、カウボーイの息子だった。
父親は、数年前から、妙な宗教に傾倒していた。
ヘイデンは、あまり関わり合いを持ちたくはなかった。
それで、ヘイデンは、ニューヨークのキングストンハイスクールに通っている。
ニューヨークのイメージとして、マンハッタンやブルックリンのような、過密なものを思い浮かべる向きもあったが、実際、歴史のある古い州でもあった。
特に、広大な森林地帯があって、その森に隣接したところが、古都キングストンだった。
かつての州都であったこの街は、森の中にあった。
キングストンハイスクールの馬術部は、広い面積を持つ、広大な馬場が、他校のそれとは違っていた。
一見して、ニューヨークの高校と馬場ですと、SNS で呟いても、大抵は信じてもらえなかった。
ニューヨークに、そんな田舎の光景はないと、大抵言われることがある。
そんな、キングストンハイスクール内に、けたたましい悲鳴が轟いた。
ヘイデン!ヘイデン!
先輩に呼ばれて、ヘイデンは振り向いた。
木の柵が破壊された、物凄い音が響いた。
「何?」
「見て解んないの?!あんな暴れ馬、どこから入ってきたの?!」
暴れ馬は、周囲の人間も物も、お構いなしに襲おうとしていた。
「いや、知りません。っていうか、ニューヨークに暴れ馬なんか、いるのか?」
「落ち着かせなさい!ヘイデン!あんた、カウボイーイの息子でしょう?!」
まあ、確かに親父は、オクラホマの荒くれカウボーイだよ?
だからと言って、暴れ馬を宥めるようなことは、してこなかった。
大体、馬術部に入ったのだって、大学進学を見据えたものだったし。
「う、うお?!」
暴れ馬が、大きく立ち上がったように見えた。
あああ、何?この馬。大きいなあ。
このままだと、踏み潰されるなあ。
死んだら、織田の黒母衣衆にでも、転生出来ないかな?
赤母衣衆は嫌いなんだ。前田利家とか。さ。
振り上げられた蹄が、額を掠め、ヘイデンはその場で尻餅をついた。馬糞の山に埋もれて。
その時、鋭い声が突き刺さった。
「さがってろ!ボロ小僧!」
え?誰?俺はもうすぐ、織田の鉄砲奉行になるところですが。
転生先は、戦国乱世で。
って言うか、ボロって、馬糞のこと?
まあ、ヤネとか、テキが何か知ってる人しか、解んないと思うけど?
ゲラウトヒア!ボロボーイ!って、俺のこと?
馬上にいたのは、金髪碧眼の、制服を着た少年だった。
荒々しい、鞍も付けないライドで、荒馬を見事に乗りこなしていた。
「凄いわ!彼!部に誘わなきゃ!」
え?馬術部に、ロデオなんか、あったの?
女子部員が、挙ってカムバーック!って、シェーンみたいに叫んだが、振り返りもせず、少年は馬と共に消えた。
思えば、これが、ヘイデン・クリストファーと、永遠の友となるライル・グリフィス・コティングリーとの出会いだった。
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