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吊り野伏
よし!みんな逃げるよ!
キハーチの背に乗って、上杉は逃げの一手だった。
脚力の強いフォーンの末脚の発揮だった。
恐ろしい速さで森を抜け、平原にさしかかっていた。
轟音を轟かせて、ダルメイユ麾下の主力が、森を駆け抜けていた。
「逃げるよ!逃げるよ!馬より速く!風より速く!」
一心不乱に、上杉の指示する方向に、フォーンコマンド部隊は駆けた。
そして、リヨン平原にさしかかったところで――。
「マジデシネシ」
とても、頼りがいのある姿を認めた。
ンジーゲを振り上げた、2メートル越の巨人の影と、すれ違った。
「ホントに頼りになるなあ!ムビジは!」
敵主力が、ムビジに到達せんとした時、
一斉に、轟音を受け足が止まった。
「な、何だ?!この音は?!」
平原の上を取ったフォーンの子供達による、十字砲火が始まっていた。
「フォ、フォーンだとう?!」
こちらに向けて、銃を斉射しているのは、フォーンの子供会、総勢200余名だった。
上手く行った。ヘイデンはとても嬉しそうな声を上げていた。
「大人が撃った弾も、女子供が撃った弾も同じ。リベリアシエラレオネの少年兵と、一向一揆と同じ手法だが、弥助が、殿を買って出てくれた!」
「こうもあっさり、決まるとはね?」
総員!引き返して矢を撃って。そう命じて、上杉は息を飲んだ。
「古来からある、使い古しの兵法だが」
「見たか早百合。あれが、釣り野伏せじゃ。では、儂等の仕手を披露しに参ろう」
そう言って、馬を返らせた。
こうも、一方的な戦果があるのか。
こちらは、上杉と10数名の大人フォーンとムビジ、それと、200余名の子供達。
ほぼ、たったそれだけで、ルークウッドの主力騎兵が、いいように斬獲されていっている。
「駄目です!上を完全に押さえられました!最早、降伏する以外に!」
副官の、頭に血の花が咲いていた。
「お、おのれえええええええええええええええええ!たかが百姓などに!」
恐らく、数百年前にも、同じように辛酸を舐めた侍もいただろう。
弾丸が、ダルメイユの馬の頭蓋を砕き、ダルメイユは落馬していた。
「おのれえええええええええええええ!おのれえええええええええええ!」
メイスを、メクラ滅法に振り回していると、もう一組の、殿が顔を出していた。
「我がな名は!武人スカアハ!今だ!情けなき我が弟子セタンタよ!魔剣に惑わされ、恥ずべき行いをしたお前の、鍔際がこれだ!」
「ちっきしょおおおおおおおおおおおおおおおおおう!ダークエルフのプリプリなオパイコおおおおおお!羨ましいぞ奉行がああああああああああ!俺も、頑張ればきっと!エルフ相手に童貞捨てられんのかよおおおおおおおおおおおお!食らえ!奥義ゲイボルグあああああああああ!」
セタンタが投げた手槍が、たちまち無数の棘となって、ダルメイユを貫いた。
「敵将は!スカアハと弟子セタンタが討ち取った!何を触っておるのかセタンタ?!」
「師匠でもいいよおおおおおおおおおお!俺の童貞もらってください!スカジリふわっふわああああああ!でもちょっと硬い!あばああああああああん!」
ポーンと、殴り飛ばされたセタンタの姿があった。
一方、残った騎兵は、2/3が撃破されたが、それでも、一様に剣の柄を差し出し、降伏していった。
この、突如始まった戦は、越中側に、ほぼ損害のないまま、一方的勝利を収めて終わった。
数は少なくとも、銃の集中運用をもってすれば、どんな恐ろしい騎兵の集団であっても、殲滅が可能となる。
ヘイデン、鉄砲奉行の用兵ドクトリンは、確かな脅威をもって、フェアリーランドを席巻したのだった。
ば、馬鹿な。負けた、だと?
ルークウッドは、それを到底受け入れられなかった。
「しかもフォーン?!あんなもの、ただの無力な百姓ではないか!」
「確かです!我等騎兵主力部隊は、約1000の兵を集い、フォーンを撃滅しようとしたところ、突如、銃による集中砲火を受けました!ダルメイユ様は戦死!残った兵も、先ほど降伏しました!ルークウッド卿!早く、落ち延びられませ!」
有り得ん。ついさっきまで、ビショップも処刑出来たと、思ったのに?
たった半日で、全てを失うのか?
その時、恐ろしい衝撃が、ルークウッドの側頭部をかすめた。
「な!何が?!――う、うわああああああああああああああああああああああああああああ!!」
転げたルークウッドが、上を見やった時、先に逃げた騎兵の生き残りの頭部が、半分吹き飛んでいた。
だ・・・・誰が?
――は?!
かなたの木の枝の上で、こちらを、銃で狙っている、人間が見えた。
ヘイデン――クリストファー。
ガタガタに震えて、両手を挙げて、ルークウッドは降伏の意を示していた。
フォーンの決起から、わずか半日で、エルフの二大巨頭の一角が、脆くも崩れ落ちていた。
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